胃カメラで「異常なし」でも4人に1人が発症? 「機能性ディスペプシア」の治療法、予防法

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胃が動くと脳の血流量が増加

 実は胃と脳は相互に強く影響を与え合っています。以前から脳と腸が密接に影響を与え合う「腸脳相関」はよく知られていましたが、胃と脳にも同じような関係があることが明らかになってきました。おいしいものを食べると「気持ちいい」という快感が生じますから、胃から出たシグナルが脳に行くことはわかっていました。ただそのメカニズムは解明されていませんでした。それが、脳の機能活動がどの部位で起きたかを画像化できる「ファンクショナルMRI」によってはっきりしたのです。

 胃電図によって胃は1分間に3回動いていることがわかっています。その時の脳の血流量を測ると、胃の動くサイクルと脳の血流量の増減がぴったり一致します。つまり、胃が動いている時に、脳の血流量が増えるのです。

 悩んでいる時には胃が痛くなるなど、脳の動きが胃に影響を及ぼすのはイメージが湧くと思いますが、その逆もあるのです。

 また、胃にはペースメーカーと呼ばれる部位があり、胃の上部にあると考えられていますが、胃の中でバラバラに動いている神経細胞の働きを整える役割を持っています。オーケストラにおける指揮者の役割で、タクトを振ると、各楽器の動きが揃うのと同じです。例えば、お腹がぐーっと鳴ることがありますが、これは胃で収縮が起こり、そこに残っている胃液や剥離した粘膜、細菌などを小腸の一部である回腸まで押し出す動きです。これを先のペースメーカー細胞がコントロールしています。そしてこの動きは、脳の血流量とも関係しているのです。

 さらに脳と胃は、神経系とは別に、消化管ホルモンを通じたやりとりもしています。胃から食欲を増進させるグレリンというホルモンが分泌されると、脳は「お腹が空いたな」と認識します。

 このように神経やホルモンを通じて、胃と脳は相互に関係しあっています。私はこれを「胃脳相関」と呼んでいます。

複数の病院に行くよりも大切なことは

 さて、FDと思われる胃の不調を感じたら、どうすればいいのでしょうか。

 FDは潰瘍や胃がんのような器質的疾患ではないため、血を吐いたり、3カ月の間に体重が5キロも減ってしまうようなことはありません。何らかの症状があり、どんどん悪くなっていくようなら、器質的疾患の可能性もありますので、すぐ病院に行かなくてはなりません。

 FDは、必ずしも受診しなければならない疾患ではありません。実際に、該当する症状があっても病院に行かない人も多いのです。ただし、器質性疾患であるかどうかは、見極める必要があります。その際は、まず消化器内科の専門医のところに行くのがいいでしょう。

 繰り返しますが、FDは器質的な疾患ではありません。だから原因が突き止められず、不安に駆られて、いろいろな病院を転々とする「ドクターショッピング」をする人が数多くいます。複数の意見を聞くことも大切ですが、この疾患について知識があり、しかも丁寧に話を聞いてくれる専門医のところに行くのが一番です。

 問診では、症状を聞いた上で、吐下血があるかどうか、体重は減っていないか、どんどん悪くなっていないかなどを尋ねられるでしょう。そして血液検査やお腹の超音波検査で、肝胆膵領域の疾患などを除外していきます。最終的には内視鏡検査(胃カメラ)が必要になりますが、ピロリ菌がいるかいないかで、器質的疾患のリスクは大きく変わってきます。日本人であれば、皆さん最初は胃がんを心配されます。でも29歳以下でピロリ菌未感染であれば、胃がんに罹患する確率は極めて低い。また胃がんなら嘔吐や急激な体重の減少などの症状が出ますので、必要以上に恐れなくてもいいと思います。

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