患者数400万人「軽度認知障害」過度に恐れるのは… 診断されたらどう過ごせばいい?

ドクター新潮 医療 認知症

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ポイントは「軽度」かつ「持続」しているかどうか

 認知症専門医である私自身、MCIかどうかを見分けるひとつの基準としては、認知症の初期症状が持続しているかどうかが重要だと思っています。認知症に関しては国際的な診断基準があって、「実行機能」「学習および記憶」「言語」等の六つに分けられた「認知領域」それぞれに症状が出たと認められると患者に認定されます。MCIはそれらが疑われるものの、生活に支障が出るところまではいかない状態を指します。いわゆる認知症の症状が「軽度」でかつ「持続」しているかどうかがポイントです。

 具体的には、前述した六つの「認知領域」のうち「知覚・運動」の部分での「軽度」な症状として、〈(目的地への)行き方について以前より地図その他に頼る必要がある。新しい場所にたどり着くために、書かれたものを利用したり他人に尋ねる〉などとあります。最終的に目的地には行けるけれど、以前よりも自分の現在位置などを把握するのに時間がかかる。スムーズに行けなくなるのが軽度の認知障害なのです。認知症になると、どんな手段を使おうとも目的地にはたどり着けなくなる。認知症になれば、もの忘れがひどくなると思いがちですが、知覚的な運動領域で症状が出ることもあるのです。

 難しいのは、こうした症状が加齢に伴う能力の低下から起こったものなのかどうかという見極めです。今日は調子が悪かったというように、単なる加齢に伴う失敗なら問題ありませんが、繰り返し起こしてしまう持続的なものならば、MCIや認知症の疑いがある。私自身、診察の際はそこを重要視するようにしています。

生活習慣病を患っている人は要注意

 先にも触れたように、仮にMCIだと診断されても、たまたま検査を受けた時は過度なストレスや不規則な生活などが原因で、心身の状態が悪かった場合だってあるでしょう。検査を受けるまでに、日常生活を送る上で規則正しい食事や睡眠を取れていたかどうか。MCIと診断された段階では、大半の人が能力的にも日常生活に支障が出る段階には至っていませんから、これを普段の生活を見直すきっかけにすればいいと思うのです。患者さんの中には、生活習慣を改めたことで心身ともに自信が生まれ、好転したケースもあります。

 とはいえ、中高年になるにつれ、男性は会社勤めなど仕事上の強いストレスにさらされて、暴飲暴食などで健康状態を悪化させてしまっている人が多い。片や女性の場合は、比較的食生活も健康的で家事などで常に体を動かしているため、平均寿命や健康寿命が長い。

 そうしたこれまでの過ごし方の帰結として、生活習慣病を患っている方は注意が必要だと思います。

 特に生活習慣が由来となりやすい糖尿病や高血圧、またコレステロールや中性脂肪の数値が高く、動脈硬化につながる脂質異常があると、認知症を発症したり進行させるリスクは高まります。医学的な見地からすれば、その理由はハッキリしていませんが、統計的にそのような結果が出ていますので、MCIと診断された方は生活習慣を見直していただくに越したことはないでしょう。

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