患者数400万人「軽度認知障害」過度に恐れるのは… 診断されたらどう過ごせばいい?

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“安易”なMCI診断

 患者さんの実態と異なる診断がつきやすいのがMCIの特徴でもあります。特に昨今は、コロナで巣ごもり生活を送っている高齢者の方が多くいます。よく顔を合わせていた友人にも会えず、繁華街への買い物や習い事にも行けない。刺激のない日々を送っていれば、日付を間違えることが増えたり、茶の間の会話で頓珍漢なことを口走ってしまうことも起こりうる。

 その結果、心配した家族が「おじいさんがボケているかも……」などと病院に連れ出して脳の検査をしたとします。普段の活動ができていない状態で診察を受けるわけですから、頭がよく働いておらずMCIと診断されてしまうケースも往々にしてある。臨床に携わる我々としても、そのような形で一時的に診断を受けた患者さんをどう支援するか難しい問題です。

 専門医も十人十色で、MCIだと診断して「認知症の始まりですから予防しましょう」と呼びかけるケースもあれば、「脳の変化はそれほど起こっていないから、いたずらに心配しないで様子を見ましょう」と静観する医者もいます。

 加えて高齢者であれば、MRI検査をすれば年齢による脳の萎縮などは確認されることが多いですから、医者から「海馬が萎縮していますね」などと言われ、“認知症に片足を突っ込んでいる”という意味でのMCIの診断が下されてしまうケースも少なくありません。そうした事情が、MCIの患者さんが“大量”に生まれている背景のひとつにあるのではないでしょうか。しかし、MCIの診療、治療にはもちろん保険が適用されます。その原資は、みなさんが払っている保険料です。“安易”なMCI診断は、この点からも問題なしとはいえないように思います。

「統計的な概念に過ぎない」

 さらにいえば、前述した認知機能のテストも、実は国際的に共通の手法が定まっているわけではありません。さまざまな種類があって、これらの結果を判断する基準値データの蓄積は、現状では75歳くらいまでの患者さんのものしかないのが実情です。もの忘れがひどくなりがちな80代、90代の人たちがこのテストを受ければ、当然ながらMCIの診断が下されやすくなってしまう傾向があることは言うまでもありません。

 そもそもMCIとは「統計的な概念」に過ぎません。もっと早く認知症の診断ができれば、より迅速な治療や対応が取れるかもしれない。そのような目的から、認知症まではいかずとも統計的に一定の基準幅に当てはまる人を、MCIと定義することになったのです。具体的には、統計から標準偏差となる値を定め、その数値の2倍を下回る数%の人をMCIと定義します。例えるならば偏差値のようなもので、必ず偏差値が低い人が存在するように、MCIの認知機能テストにおいても一定数の患者さんが生まれる仕組みになっているのです。

 ですから、MCIと診断されたからといって、本当に病人として扱っていいのかという問題はあります。実際には「認知機能検査の成績の悪い人」の中の数%が診断されているようなものですからね。MCIと診断されてすぐ認知症になってしまうんじゃないかと恐れるのではなく、たまたまテストを受けた時の結果が振るわなかった。成績が下位数%になってしまった。そう考えることも大事だと思います。

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