元公安警察官は見た 30年間「黒羽一郎」になりすました朝鮮系ロシア人スパイに味わわされた屈辱

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 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、30年もの間日本人になりすましてスパイ活動していたロシア人について聞いた。

 スパイが正体を隠すために、実在する他人の身分・戸籍を乗っ取って、その人物になりすますことを公安用語で“背乗り(はいのり)”という。

 2008年8月、警視庁公安部は朝鮮系ロシア人の男を国籍、氏名、年齢とも不詳のまま旅券法違反などの容疑で書類送検した。実は、このロシア人、1965年6月、福島県郡山市で失踪した歯科技工士の黒羽一郎さん(当時35)になりすまして30年間国内でスパイ活動をしたというのだ。

「この事件は、公安部外事1課にとっては大変不名誉なものでした」

 と語るのは、勝丸氏。

「男のことを知ったのは1995年。アメリカのCIAから『黒羽一郎を名乗るロシアのスパイが、日本国内でアメリカの軍事情報、日本の産業情報を収集している』という極秘情報が警察庁に寄せられたのです」

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