元公安警察官は見た ロシアスパイが東芝子会社社員を油断させるために使った意外な“素性”

  • ブックマーク

Advertisement

半導体「IGBT」

 サベリエフと子会社社員は、2004年9月から翌年5月にかけ、都内の居酒屋やファストフードなどで9回接触したという。社員に対し、「東芝のLANに入れないだろうか」「半導体の情報が欲しい」と要求。社員は飲食代が欲しかったため、現金を渡され、篭絡されたという。

「2人が9回接触した時の一部始終を店内で客に扮した尾行チームが見ています。会話を録音し、動画も撮影していました。社員は居酒屋で、パソコンからメモリーカードにコピーした情報をサベリエフに渡していました」

 社員が渡したのは、東芝が開発した「IGBT」(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)と呼ばれる、電流を制御する半導体関連の情報だった。その見返りとして約100万円を受け取ったという。

「社員が提供した情報は民生用の半導体情報ですが、潜水艦や戦闘機のレーダー、ミサイル感知システムなど、軍事に転用可能でした」

 ところが、2005年6月、ロシア大使館の安全確保要員が公安の捜査を察知、サベリエフは帰国した。警視庁は、サベリエフが来日できないようにするため、外務省に入国拒否の手続きをするよう要請したという。

 一方、子会社社員は2005年9月、論旨免職処分となった。10月、公安部は軍事転用が可能な情報と判断、2人を背任容疑で書類送検。東京地検は2006年2月、東芝子会社に与えた損害が小さかったことから、サベリエフと社員は起訴猶予処分とした。

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。