家電“質”販店を生み出した「人」からの経営――野島廣司(ノジマ取締役兼代表執行役社長)【佐藤優の頂上対決】

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新幹線経営

佐藤 その中でノジマが、2020年度に過去最高の361億円の利益を上げられるなど、成長を続けているのはすごいことです。それを支えるコンサルティングセールスはどのように始まったのですか。

野島 私は大学卒業後に父が作った電器店に入りましたが、当時は赤字で借金だらけでした。そこに第4次中東戦争が起きて、オイルショックになったんです。

佐藤 1973年ですね。

野島 当時、相模原の自社ビル2階にオーディオ売り場を新設しました。私自身、オーディオが好きだったので、この売り場でお客さまを呼び込めないかと考えたんですね。でも、どこにでもあるような売り場では、お客さまに来ていただけません。ですからオーディオマニアから見たら一目瞭然の高級品を揃えたコーナーを作ったんですよ。

佐藤 当時は、システムコンポが流行っていましたね。

野島 単品コンポから始めて、2~3年後にはそのシステムコンポもいいものを揃えました。当時は、時間とお金をかけて秋葉原まで行かないと、高級品は買えなかった。でも相模原で手に入れたいというお客さまもいるはずだと思ったんです。そこで、自分で勉強して、店舗の改装、仕入れ、宣伝、接客、アフターケアを一人でやったんです。

佐藤 それが大成功した。

野島 はい。たくさんのお客さまが来店され、品揃えにも満足していただきました。一度私の説明を受けたお客さまが私から買いたいと再来店してくださることもありました。これが原点にあります。

佐藤 店作りも接客も、その体験が従業員に共有されているわけですね。

野島 私は、人間にはまずDNAや性格があり、次に考え方があって行動が出てくると捉えています。DNAは変えられませんが、考え方は変えられる。そこをよくしていこうというのが、私の経営スタイルです。一般書籍として『失敗のすすめ』という本を出したことがありますが、社内では私の考え方を記した「ノジマウェイ」という冊子を6冊出し、従業員に読んでもらっています。

佐藤 イギリスのリチャード・ドーキンスという進化生物学者が、生物学的な遺伝子とは別に、組織や文化にも遺伝子があると言っています。「ミーム」と言いますが、まさにそれに当たりますね。

野島 冊子には考え方が書かれているだけで、マニュアルではありません。そもそも弊社にはマニュアルがない。だから新入社員には「日本で一番難しい仕事をしなきゃいけないかもしれないよ」と言っています。

佐藤 自分の頭で考えろ、ということですね。

野島 ええ。例えば説明会や発表会などのスピーチでは原稿を読むことを禁止しています。原稿は作ってもいいけれど、それを読み上げるのはダメです。その場で考えて、自分の言葉で思いを伝えなければならない。

佐藤 インテリジェンスの世界でも、イスラエルの「モサド」やロシアの「対外諜報庁」は、紙やデジタル資料を使わずに話し合いますね。数字や固有名詞、複雑な事情がある場合には紙に記すこともありますが、すぐ回収します。そもそも記憶力のいい人しかインテリジェンス・オフィサーになれませんから。

野島 講習や発表会のスピーチには点数をつけます。評価しているのは同じ従業員たちです。私はこれまで数々の結婚式に出てきましたが、弊社の従業員のスピーチは素晴らしいと評価してもらうことが多いのですよ。

佐藤 スピーチ力がついている。

野島 それにマニュアルで「こうやれ」と指示するより、自発的にやった方が力が出ます。嫌な上司に「1」命令されたら出てくる成果は「0.3」にしかならない。比較的人間関係のいい上司でも0.7程度です。私の家庭みたいに50年間、夫婦を続けて何とか1になるかどうか(笑)。でも自発的にやりはじめると、それが1.5にも1.6にもなる。

佐藤 実はモサドや対外諜報庁には、「命令」がありません。すべて「お願い」です。

野島 ウチと重なりますね。

佐藤 マニュアルなき世界ですから、当人が完全にその計画に納得して「やれます」と言ってから実行しないと、失敗してしまうんです。

野島 やはり自ら動くことが肝要なのですね。日本の新幹線が速いのは、車両すべてに“エンジン”がついているからです。SLは先頭だけですし、普通の電車は2~3両に一つです。弊社は全員にエンジンがある「新幹線経営」を目指しています。

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