家電“質”販店を生み出した「人」からの経営――野島廣司(ノジマ取締役兼代表執行役社長)【佐藤優の頂上対決】

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 メーカー派遣の販売員を使わず、自社の従業員だけでキメ細かな「コンサルティングセールス」を行うノジマ。その店舗はあえて大型化せず、また従業員にはマニュアルもない。他の家電量販店とは一線を画す独創的店作りは、いかに生まれたのか。原点は、草創期オーディオ売り場にあった。

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佐藤 一般的にノジマは家電量販店に分類されますが、他のチェーンとは違い、自社スタッフによるキメ細かなサービスで知られています。

野島 弊社の接客方針は、お客さま一人ひとりの好みに合わせた商品をお薦めする「コンサルティングセールス」です。家電業界では、メーカーやキャリア(携帯電話会社)から派遣されたスタッフによる販売が主流になっていますが、弊社では自社従業員がお客さまの立場に立って、ニーズにあった商品を提案しています。

佐藤 他店では半分ほどがメーカー派遣だと聞きました。この人たちは当然、そのメーカーを背負って来ていますから、他の製品がいいと思っていても薦められない。

野島 その通りです。一方、弊社では従業員がさまざまなメーカーの製品について理解しなければなりません。このためよく勉強をし、努力する人たちを採ってきました。従業員2~3人だった頃から大卒を採用し、ここ10年ほどは新入社員に大卒が占める割合が9割を超えていると思います。

佐藤 だから質の高い接客ができる。

野島 はい、弊社は一般の家電量販店とは違います。量よりも質を売る「家電質販店」と呼んでいただきたいですね。

佐藤 確かに消費者は、一円でも安く買うことだけを望んでいるわけではありませんね。品揃えや信頼性、アフターサービスなども含めて、総合的に店選びをしています。

野島 商品購入の最終段階である配送と工事も大事です。せっかく販売員がいい接客をしても、そこが悪いと店舗の印象は悪くなってしまう。

佐藤 エアコン一つ取り付けるのも、設置が難しい場所だったり、穴を一つ余計に開けないといけないことがあります。その時にどう対応してくれるかですね。

野島 ですから配送や工事にも力を入れています。自前の部分も、協力会社にお願いしている部分もありますが、質だけは常に維持できるよう取り組んでいます。

佐藤 そしてノジマの特徴は、他の家電量販店より店舗が小さいことですね。

野島 あえて店舗を大型化せず、コンパクトな店作りをしています。理由は二つあります。一つは、大きな店舗になると商品の数が増えすぎて、全メーカーの商品を覚えられなくなるんですね。するとコンサルティングセールスができなくなる。

佐藤 それはいい商品だけに絞り込むことにつながります。

野島 その通りです。もう一つは、大型化すると従業員がものすごく疲れるんですよ。他の会社ならメーカーから派遣されてきた人が自社製品の周りにいればいいのですが、弊社の場合、売り場全体を動き回ります。繁忙期になると、1500坪の店の中を毎日1万歩も歩いてしまう。

佐藤 従業員の労働環境も考えておられる。

野島 そもそも店舗が大きくなりすぎると、どうしてもお客さまとの距離ができてしまいます。

佐藤 品揃えや店舗形態まで「人」からの発想で作っていくところが、ノジマの独創的なところですね。

野島 店作りのベースになるのは従業員です。だからノジマは、じわじわとしか成長していきません。知識を持ち、自分で考えて接客できる従業員が育たなければ出店できないからです。そこも他の量販店やチェーンストアと違うところですね。

佐藤 いま、どのくらいの店舗数があるのですか。

野島 デジタル家電専門店「ノジマ」は首都圏を中心に約200店舗あります。

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