不倫相手は「人形」だった アパートを借り重ねた逢瀬、それを知った妻の“ドン引き”

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妻にバレ…

 1ヶ月後、ようやくアパートを契約し、ふたりのゆっこを引っ越しさせてほっとしたころ、妻が彼に来た郵便物をひらひらさせながら迫ってきた。

「その日は土曜日だったと思うんですが、息子がいなかったんですよね。美結は『どういうことか説明してくれる?』って。それ、新たに借りたアパート関係の郵便だったんです。これは白状するしかないのか、だけどゆっことの恋は美結の知らない話。学生時代に遡って話すしかないけれど、本当は話したくない。聞かされたほうだって楽しくはないでしょう。でもただの人形好きだと思われても困る。どうしよう、と頭の中でくるくるいろいろな思いが巡りました」

 結局、祥平さんは「もう嘘はつけない」と人形をアパートに住まわせていることを打ち明けた。ただ、ゆっこさんの話はどうしてもできなかった。

「妻が見たいというので、アパートに連れていきました。そこもかなり古い安い部屋ですが、ドアを開けて“ふたりのゆっこ”がソファに座っているのを見るなり、妻は『うわあ』と言ったきり立ち尽くしてしまった。『言葉を選んでいる余裕がないからストレートに言うけど、寒気がするわ、私』と妻はいいました。顔が青ざめていた。本当に気持ちが悪いと思ったんでしょうね。『あなたはここでしているから、私との夜の生活を拒んだのね』とも言った。いや、それは違う、きみが拒んだんだよと言ったけど、『生身の女より人形がいいということでしょ、わかった』と妻は出て行ってしまった。心なしか、ふたりのゆっこが傷ついたように見えて、それから1時間ほどゆっこたちと過ごしました。僕も寂しかった。でも一方でわかってもらえるはずもないと諦観している自分がいたような気がします」

 帰宅すると妻はいなかった。ほどなく息子が帰ってきたが、母親の行き先は知らないと言う。メッセージも電話もつながらない。息子とふたりで食事を作って食べたが、妻はなかなか帰ってこなかった。何度も電話をかけているうち、祥平さんはうっかり眠り込んでしまった。

 翌朝、起きると美結さんがいた。なんと言うこともないごく普通の日曜日の朝だった。

「妻は僕の目を見ないまま、おはようと言いました。僕もおはようと言った。どこに行っていたのかと聞きたいけど聞けなかった。本当は聞いたほうがよかったのかもしれない」

 どこに泊まったのかを聞けなかった彼と妻との間に、決定的な距離ができた瞬間だった。それ以来、今に至るまで何事もなかったかのように暮らしているが、妻とはほとんど会話らしい会話を交わしていない。子どもの学校の行事や、再来年受けるかもしれない私立中学のことだけは業務連絡のように妻から言葉が飛んでくる。

「たとえば息子の学校の運動会がいついつある、と。何か演し物に参加できるのかな?と言うと、『さあ、聞いてみたら』とだけ返ってくる。先日も、息子を映画館に連れていく約束をしたから、一緒に行こうと言ったら『私はいい』。もっと話したいですよ、でも妻は全身で拒んでいる。僕が1泊で出張したら、その間に寝室を別にされてしまいました。それが妻の気持ちなのだと思うしかありません」

 ふたりのゆっこさんは、今も変わりなく、狭くて古いアパートで祥平さんを待っている。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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