不倫相手は「人形」だった アパートを借り重ねた逢瀬、それを知った妻の“ドン引き”

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彼女の愛称をつけた人形

 店の人に彼女を失ったことを話した。そういえば誰にもそんな話をきちんとしたことがなかったと彼は気づいた。学生時代の仲間と会っても、みんな気を遣って彼女の話を祥平さんにはしなかったからだ。

「大枚はたいて人形を買いました。彼女の名前をそのままつける気にはならなかったので、愛称だった“ゆっこ”と名付けたんです。人形のゆっこは、ひとり暮らしの部屋に置き、いつも一緒に過ごすようになりました」

 ラブドールを作っている会社を取材したことがある。祥平さんの場合はたまたま人形のほうが彼女に似ていたのだが、先立たれた恋人や妻に似せて人形を作ってほしいという依頼は少なくないのだという。愛した人を亡くす喪失感がどれほど大きいか、想像に難くない。

 祥平さんは、ゆっこさんが来てから部屋には誰も入れなかった。以前は、出張のため地元から上京してきた父を泊めたこともあるが、ゆっこさんがいるので泊められない。父のためにホテルをとった。父は女性と一緒に住んでいると勘違いしたらしい。

「それでも35歳のときに見合いしたのは、現実の女性と家庭を築きたいと思ったからです。人形のゆっこはラブドールですから性行為に及ぶこともできます。柔らかくて気持ちいいけど反応はない。それが妙に寂しくなって……」

 こんな話をして大丈夫ですかと彼がつぶやく。せつなかった。

年下の女性と結婚、しかしゆっことの逢瀬は続き…

 結婚相手は3歳年下の美結さん。祥平さんによれば、「尖ったところのない、バランスのいい女性」らしい。「穏やかな家庭を作るには最適な素敵な人」だったが、新居で結婚生活を始めてからも、彼は以前のひとり暮らしの部屋を解約しなかった。

「学生時代から住んでいた小さな木造アパートなんですよ。駅から近いし、ひとりだから住むところに執着もなかった。生きていたゆっこがよく来てくれた部屋だから引っ越すこともできなくてずっと住んでいたんです。人形のゆっこはそこに居てもらうことにしました」

 妻の美結さんとの間には、現在、11歳になるひとり息子がいる。5年前には共同名義で家も買った。それでも祥平さんはずっとアパートの契約を更新し続けている。

「土日のどちらかは仕事だとかつきあいだとか偽って、ゆっこと数時間を過ごしてきました。通勤途中の駅にゆっことの部屋があるので、平日も仕事終わりにちょっと寄って、部屋に風を通したり、ゆっこを着替えさせたり。そのことで家族に悪いと思ったことはないんですが、僕が家庭をもったことをゆっこにすまないと感じたことはあります」

 現実の家庭のほうが彼にとっては「現実感がなく」、人形のゆっこさんとの生活のほうが現実感があるのかもしれない。成し遂げられなかった夢に固執しているところもあるのだろうか。

「共働きで忙しいけど、息子の育児には僕もかなりどっぷり関わってきました。ヒトがヒトになっていく過程はおもしろかったし、美結のおかげで息子はやんちゃだけど明るくて、サッカーや野球が大好きで正直な子に育っている。息子を見ていると、自分の子どもの頃を思い出して生き直しているような気持ちになります。家庭はいいなと思いますよ。だけどどこか俯瞰で見ている自分がいるんですよね。それが現実感のなさということなんだと思います。ゆっことのアパートでの時間は、本物のゆっこがいるころから続いてきたことだし、それが人形に置き換わっても、いや置き換わったからこそ、僕の生活にとって重要なものになっているんだと思う」

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