「金メダルでなければ結婚が否定される」 向田真優が明かす試合前の重圧と勝機を掴んだ瞬間(小林信也)

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 大学の女子選手がコーチを好きになった。コーチは選手を好きになった。互いに独身。二人は結婚を約束し、1年後の東京五輪で“必ず金メダルを獲ろう”と誓い合った──。その選手・向田真優は、吉田沙保里、伊調馨らが輩出した名門・至学館大の4年生で主将だった。コーチの名は志土地翔大。“コーチが選手と恋愛するとは何事だ”と、チーム内外から二人の恋愛は猛反発を受けた。

 他の選手の拒否反応も強かった。向田と志土地の恋愛がわかると、練習の雰囲気はひどく乱れた。志土地は責任を取り辞表を出した。2019年9月末のことだ。

 吉田沙保里の後継者と呼ばれる向田は、19年9月の世界選手権で2位に入り、東京五輪女子レスリング53キロ級日本代表に決まっていた。向田が振り返る。

「辛かったのは、志土地コーチが大学をやめてから半年間、練習を見てもらえなかったことです」

 向田の卒業を待って二人は本拠を東京に移した。その頃、コロナ禍の影響で五輪の1年延期が決まった。

 志土地の処分は大学だけにとどまらなかった。リオ五輪に帯同し、メダル獲得を支えた実績のある志土地が日本代表コーチから外された。そのままでは志土地が東京五輪で向田のセコンドに入れない。もちろん向田は「セコンドに付いてほしい」と熱望していた。

 だが、それを阻もうとする空気が上回っていた。哀しい話だが、コーチの失脚を仕掛ける出来事がここ数年スポーツ界で頻発した。誰かが追われれば、代わりに誰かがその椅子に座れる。東京五輪の舞台に立ちたいのはコーチや役員も一緒なのだ。

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