「社内調達した妻」が義母の死をきっかけに憎悪を爆発… 48歳「不倫夫」に覚えた違和感

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「あなたのご主人と不倫してまーす」

「5年前のある日の深夜、淑恵がいきなりうちに来たんですよ。うちはマンションでオートロックなんだけど、淑恵はどうやら誰かが入ったときに一緒に入ってしまったようです。そのまま我が家の玄関までやってきてチャイムを鳴らした。『こんな時間に誰かしら』と妻が応答したその画面に映っていたのが淑恵。腰を抜かしそうになりました。あわてて『オレが出る』と言いかけたとき、ドアの向こうで淑恵が『私、あなたのご主人と不倫してまーす』と大声で叫んだんです」

 仁史さんは玄関を飛び出し、淑恵さんの腕をつかんでマンションの外へと出た。彼女は明らかに酔っていて、『今日、どうして連絡くれなかったのよ』『痛い、離して』と叫び続ける。帰宅する住民からは怪訝な顔をされた。

 少しマンションから遠ざかってからやっと、仁史さんは「何しに来たんだよ」と淑恵さんの腕を離した。

「だって今日、連絡くれるって言ったじゃない。私の誕生日なのに……」

 淑恵さんはそう言って泣き出した。しまった、と仁史さんは思ったという。淑恵さんの誕生日を一緒に祝おうと言った記憶がよみがえってきた。すっかり忘れていたのだ。その日はしばらく会えていなかった亜矢子さんと連絡がとれて、翌日会う約束をした。それがうれしくて淑恵さんのことは頭から抜けてしまったのだった。

「もうこの人とはやめたほうがいい。そう思いました。彼女を傷つけるだけだから。淑恵にはそう言いました。『オレは家庭が大事なんだ。別れてほしい』と。ストレートすぎたんでしょうか、淑恵は『認めない、そんなの受け入れられるわけがないでしょ』と怒り、泣きながら私を殴りつけました。黙って殴られているしかなかった。そうしたらそこへ妻がやってきたんです」

 泉美さんは淑恵さんにきれいなハンカチを渡した。そしてこの上なくやさしく、「ごめんなさいね。あなたを傷つけて」と謝ったのだ。淑恵さんは妻に平手打ちをくらわせた。妻はそれでも淑恵さんに向かって頭を下げ続けた。

「もういいわよ、バカ夫婦が、と淑恵は吐き捨てるように言うと走り去りました。崩れるようにしゃがみこんだ泉美に、私が頭を下げました。こんなことを妻にさせるなんてと、自己嫌悪に陥りましたね」

 妻は何も言わなかった。ふたりで自宅に戻ると、妻は「寒かったね、熱いココアでも飲まない?」と笑顔を向けた。

「どうして怒らないんだよ、と思わず言ってしまいました。すると妻は『怒ってもしかたがないでしょ、もうすんだことだからいいじゃない』と。怒ってくれたほうがずっと気持ちが楽になる。でも妻は笑顔なんです。無理した笑みじゃない。なんとなく妻の本心がわからなくて怖いなと思いました。作ってくれたココアはとてもおいしかったから、よけい底知れない恐怖を覚えましたね」

 その後も妻は、淑恵さんとの件を蒸し返すことはなかった。仁史さんは心の隅で妻に手を合わせながらも、亜矢子さんと会い続けていた。その間にときどき、亜矢子さん以外の女性とも交流をもつことがあった。家庭は変わらず無風状態、妻は子どもたちが大きくなったからとパートに出るようになり、ときおり学生時代の友人たちとも会って楽しんでいるようだった。

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