「だしのプロ」が明かすダイエット効果 香りが脳の報酬系を刺激して満足感が

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うま味の発見

〈古代日本で757年に施行された「養老律令」では、かつお節の前身と考えられている「堅魚」「煮堅魚」が重要貢納品の一つとしてあげられている。また、797年に奏上された「続日本紀」には、蝦夷の須賀君古麻比留(すがのぎみこまひる)が昆布を朝廷に貢献したとの記述がある。かつお節や昆布が日本の歴史と共にあったことが分かるが、それらが「だし文化」として結実したのは、1467年から1477年まで続いた「応仁の乱」以後だとされ、江戸時代に入ってから大いに発展した。

 幼少期より昆布のだしに興味を持っていた東京帝国大学の池田菊苗教授が昆布から「グルタミン酸ナトリウム」を抽出することに成功し、それを「うま味」と名付けたのは1908年。その発見が元となって開発された「味の素」は今も我々にとって身近な存在だが、「うま味」が世界で受け入れられるのは、それから90年も後である。甘味、酸味、塩味、苦味に次ぐ第5の味として「UMAMI」が認められたことをニューヨークタイムズ紙が報じたのは1998年だ。そして2013年、ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」の根幹を成すのはもちろん、だしである。〉

脳の報酬系を刺激

 だしの濃さや取り方、だしに加える調味料の量などは一品一品違うと思いますが、どの料理でも同じ素材のだしを使うというのは、和食ならではでしょう。フレンチのだしであるブイヨンやフォンはさまざまな素材からとりますし、中国料理の湯(タン)にしても、全てのお皿で同じような湯を使うというのは考えにくい。そもそも日本料理や和食は季節の食材を生かすのが大前提のお料理。だしは素材を引き立てても、でしゃばらない。だからこれまでの和食の歴史で重宝されてきたのでしょう。

〈和食の料理人にとっては絶対に欠かすことができないだし。山崎教授がそのだしを研究対象とするに至ったのは、どういう経緯からだったのか。〉

 自分の仕事の都合で、2000年代初頭から5年ほど、アメリカで生活していました。当時は今とは全く違う運動生理学領域の研究をしており、ちょうど子育ての時期とも被っていて、子供に何を食べさせたらいいのかを悩んでいました。子供と一緒のものを食べて「おいしいね」と言いたいけれど、子供がアメリカでの食事に慣れてしまうと、同じものを楽しめなくなる、と心配していたのです。私自身は1年に1回日本に帰国すると、どうしても和食を懐かしく感じて食べたくなってしまう。日本に到着したら必ず成田空港で「きつねうどん」を食べていました。おいしいのはもちろん、ホッとリラックスできる。それはアメリカで食べた、どのおいしい料理でも得られない感覚でした。そういった感覚を子供とも共有したかったのです。そこで、日本に帰国した後は食に関する研究をしたいなと思いました。「ホッとする味わい」、その感覚についての研究をしたいなと考えたのです。

〈近年はだしの健康効果に注目が集まり、2019年には『1日1杯飲むだけダイエット やせる出汁』(工藤孝文著、アスコム)という本が発売され、ベストセラーになっている。〉

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