「横浜出身」って言っちゃいけないの? ふかわりょうが思う「地名のイメージ」

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2021年10月09日

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「横浜出身」問題

 ふかわりょうが刊行したエッセイ集『世の中と足並みがそろわない』(新潮社)は、発売日に即重版するなど話題に。そんなふかわさん、「横浜」「湘南」「軽井沢」などの地名が持つ言葉のイメージが気になるそうで――。

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 言い訳がましいと思われるのを承知で申し上げますが、それはわかりやすさゆえ。二度手間を省くためです。というのも、これまでの経験上、「出身はどちらですか」「神奈川です」「神奈川のどちら」「横浜です」という流れに十中八九なるので、その無駄と思しきやり取りを省き、「横浜出身」という端的な表現に至っているのであって、決して「神奈川出身」と言いたくないわけでも、「横浜」を鼻にかけているわけではありません。むしろ、お言葉ではございますが、聞き手側に横浜に対する潜在的な羨望があるのではないでしょうか。

 神戸出身の方にも同様の指摘があると伺いますが、正直、そちらの方面に関してはわかりかねます。中華街やイルミネーションなど、横浜と類似点の多い神戸。だからといって、港町特有の性質と一括りにされることにはいささか抵抗があります。少なくとも、我々「浜っ子」は、地元を誇りにこそ思っているものの、プライドが高いわけでも、ましてや神奈川県民であることを軽んじているわけでもないので、「横浜出身」という直通表現に違和感を覚えられることには理解に苦しみます。

 吉祥寺の方も、そうでしょうか。どこに住んでいるのか尋ねられ、「武蔵野市」を経由しない方がほとんどではないかと思います。イメージを大切にし、地名から浮かぶ印象が家賃に反映される我が国において、「武蔵野市」より「吉祥寺」と言った方が、場所が明確になるだけでなく、都会的かつ洗練されたセンスを相手に印象付けることができます。「横浜出身」問題と同様、「武蔵野市」と言っても伝わりづらいという理由で選ぶケースもあるでしょうが、この恩恵にあやかりたいがために、果たしてここを吉祥寺と呼んでいいのだろうかという地域でも、「吉祥寺」を主張する者もいます。

どのエリアが「湘南」なのか

「湘南」というエリアがあります。かつて湘南ナンバーが開設されると、相模ナンバーだった人たちがこぞって切り替えました。どうしてこんなにも、人気なのでしょう。いつイメージが出来上がったのか、「湘南」と聞くだけで波の音や潮の香りが漂ってきます。日本におけるサーフィン発祥の地。サザンオールスターズの名曲の数々。「湘南爆走族」という漫画もありました。どうして人は、「湘南」に惹かれるのでしょう。湘南には一体、何があるのでしょう。

 そこで問題となってくるのが、湘南の定義。どのエリアが「湘南」にふさわしく、その恩恵に与ることができるのか。「湘南」自体のイメージも人それぞれであれば、エリアも人それぞれ。湘南ドライブというと、どの辺りを指すのでしょう。小田原まで行っていいのでしょうか。左手に海を望む、相模湾沿いの134号線。サーファーがいなかったら駄目でしょうか。横浜出身の私は、江の島、逗子、茅ヶ崎あたりに向かいます。

 逗子の先の葉山や三浦半島となると、それぞれに独自のイメージがあるので、除外対象。逗子は湘南でも、葉山は葉山。「向こうのあの灯は葉山の街」というオフコースの歌詞。御用邸や、一色海岸という美しい響きは、湘南という若者の賑わいとは一線を画している気がします。加えて三浦半島は、スイカなどの農産物もあるように、田畑が広がっているイメージ。江ノ電ではなく京急電鉄の香りがしてきます。

 烏帽子岩が見える茅ヶ崎は、波の音はもちろん、桑田さんの声まで聞こえてくるおかげで、「湘南グループ」から除外されずに今日に至ります。では、相模川を隔てた西側はどうでしょう。小田原まで行ってしまうと、潮の香りというより、魚介・練り物など磯の香り。「西湘」が似合います。余談ですが、もしも「湘南」でなく「南湘」だったら、語感的にも今日の人気まで到達しなかったかもしれません。

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