「横浜出身」って言っちゃいけないの? ふかわりょうが思う「地名のイメージ」

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湘南のイメージを保持しているもの

 難しいのが、平塚、大磯、二宮、国府津。ここは「準湘南」とも言うべきか、意見が分かれるところ。地元の人の自覚度合いも違い、西へ進むごとに濃淡のグラデーションになるでしょう。大磯は、何といっても大磯ロングビーチ。かつて「芸能人水泳大会」があり、テレビの中に存在した憧れの場所。さすがプリンスホテル、さすが西武グループ。ブランディングが上手です。もしなければ、美しい松林のエリアとして名を馳せていたかもしれませんが。

 二宮、国府津は地元の方も湘南の自覚はないのでは。湘南に住んでいると言われて国府津だったら「え?」と言いたくなります。私の兄は、丹沢の麓にある秦野に住んでいながら、真っ先に切り替えて「湘南」ナンバーの車に平気で乗っていますが、さすがに「湘南」に住んでいるとは言いません。なので、湘南ナンバーに該当する地域が「湘南」とは必ずしも言い切れない部分もあり、実態や行政の区分けとイメージが一致しないあたりが、研究意欲をそそります。

 こうなったら、「湘南に連れてって」と、AIに頼んでみましょう。「ここは、湘南ではありません」と、二宮あたりで答えるかもしれません。逆に、科学的なアプローチとして、空気中の塩分濃度で湘南かどうかを決めますか。潮の香りはもちろん、住宅や駐車している車が潮焼けしているかどうかなど。そうなると、おそらく兄の住む秦野はとても厳しい状況に追いやられる気がします。

 そもそも「湘南」のイメージを保持する要因の一つに、「南」のポテンシャルが挙げられます。「南向き、日当たり良好!」、アニメキャラクターの「浅倉南」。「南」が与える印象がそもそもいいのではないでしょうか。一方、北はどうでしょう。「北枕」という言葉は少なからず「北」のイメージを構成する一因になっています。「北北西に進路を取れ」という映画がありましたが、「南南東に進路を取れ」では過酷さが弱まってしまいます。「南の宿から」では、ハワイアンなフラダンスっぽい曲調が浮かびます。温暖で温厚な「南」の持つ資質も「湘南」のイメージを強固にしているのではないでしょうか。もっと言うと、「湘南」という組み合わせ。そこに「南」がいることを忘れさせるくらいしっくりきているので、「西葛西」のように、「南湘南」という地域があっても違和感ありません。

湘南と呼ばれたくない鎌倉民?

 私の知人で、鎌倉に別宅を持っている方がいます。その方からすると、鎌倉を湘南に入れてほしくないそう。これは衝撃を受けました。皆が憧れる湘南なのに、「湘南」と呼んでほしくない。むしろ鎌倉の品位が下がってしまう。確かに昨今、鎌倉は大ブームであり、観光はもとより居住地や別荘地としても地位を確立していますが、まさか「湘南」で括られたくないとは。EUから離脱した某国のようなプライドを感じさせます。ましてや、その方は北陸出身で都内在住の、いわゆる部外者。にもかかわらず「鎌倉」への愛情がこんなに深いとは。きっと、サーファーや潮の香りよりも寺社仏閣、「古都」のイメージを大切にしたいのでしょう。地元の方に住民投票してもいいかもしれません。鎌倉は湘南に加入するべきか。

 ちなみに「鎌倉」から少し上ると、「北鎌倉」と呼ばれる地域になります。どうでしょう、この「北」をつけた際のプレミアム感。より上品であり、静謐と竹林と、「鎌倉」以上に歴史を感じさせる不思議。「北」からほうふつさせる「北条」感もあるかもしれません。「北鎌倉」には、潮の香りを跳ね返す、悠久の香りと静けさがあるのです。

 香りでいうと、小田原より西。湯河原は神奈川ですが、熱海は静岡。どちらも海沿いですが、潮の香りよりも硫黄の香りが漂ってくるので、相模湾に面していても「湘南」に加入することは難しいでしょう。

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