小児ホスピスの奇跡 コロナ禍で命限られた子供ためにやった新たな取り組み【石井光太】

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幕を開けた緊迫した日々

 余命の限られた子供は体調の波が激しく、今日は安定していても、翌日には危篤に陥っているということが珍しくない。だから、家族はできる時にできることをしたいと願う。ホスピスはそんな家族の気持ちを理解していたからこそ、コロナ禍での受け入れを決意した。

 市川はつづける。

「ご家族が求めていたのは、家族みんなで安心して過ごせる場だったはずです。逆に言えば、うちとしてはご家族の期待に応えられるだけの安心な場を提供しなければならなかった。コロナ禍ということもあり、それをどう実現していくか普段以上に話し合いました」

 ホスピスではまずスタッフを二チームにわけて、勤務日を完全に別々にすることにした。片方のチームに感染者が出ても、もう片方によって運営を継続できる体制を整えたのだ。その上で、消毒など感染予防策を徹底し、写真展や夏祭りなどイベントは全面的に中止し、家族単位の個別利用だけに限定した。

 終末期の子供は体が弱いため、感染すれば命取りになりかねない。新型コロナの感染を防ぎつつ、難病の子供たちに幸せを届けるという緊迫した日々が幕を開けた。

複数の家の子供をつなげる「オンラインフレンズ」

 ホスピスでの活動は、家族同士の接触を避けるため、スケジュールが時間ごとに細かくわけられた。この時間はこの家族というようにスケジュールが決められ、その時間内で家族はパーティーをしたり、ゲームをしたり、水遊びをしたりするのだ。

 むろん、これはこれで家族の願いを叶えることにはなったが、ホスピスとしては複数の家族で集まれるイベントを完全になくすのには抵抗があった。同年代の患者同士がつながり、親同士が知り合って得られるものも大きいからだ。

 そこでホスピスは、オンラインによるイベントを開催することにした。

 たとえば、動物テーマパークのアドベンチャーワールドと協同で「わくわくスマイルDAY」というオンラインイベントを開催し、イルカショーを披露したり、動物クイズをしたりした。

「オンラインフレンズ」というイベントでは複数の家族の子供をつなげ、折り紙やお絵描きをしたりして交流を深め、「きょうだいさんのお話@オンライン」では難病の子供のきょうだい支援団体「しぶたね」と一緒にきょうだい支援のあり方を考える機会を提供した。

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