撮り鉄「共産党議員」の書類送検で注目 全国に1万7000以上ある“勝手踏切”という 謎の存在

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 9月18日、共産党の山添拓参議院議員がツイッターを更新。2020年11月3日に埼玉県長瀞町へ秩父鉄道の鉄道写真を撮りに行った際に、線路を横断した行為が埼玉県警秩父警察署から軽犯罪法違反であるとの指摘を受け、書類送検されたことを明かした。

 線路を横断する行為は、一般的にも踏切道で頻繁におこなわれている。これだけなら日常的な行為で、警察からお咎めを受けるような話ではない。では、どうして山添議員は警察から書類送検されることになったのか? 私たちが当たり前のように目にしている踏切道は、実に厄介で難解な、とんでもない代物だったのだ――

 まず、山添議員のツイッターを引用してみよう。山添議員は「私は、地域住民によって道がつけられ、水路に渡し板がかけられていた箇所を、列車が接近していない時間帯に、通行可能な道であるという認識のもとに、約1秒程度で渡りました」「これが渡ることが禁止された箇所であったという指摘については、素直に従い、すべての事情を説明し、反省する旨を記した上申書も提出しています」と発信している。

 これら一連のツイートはテレビ・新聞・ネットで報道され、拡散された。これだけを読んでも詳細はつかみづらいが、ネットでの反応は共産党批判もしくは警察批判に二分している。山添議員が共産党の国会議員だったことが、議論をそちらの方向へ導いていることは間違いない。

 しかし、本稿は山添議員の行為を批判するつもりはなく、かと言って擁護する意図もない。ここで事の善悪は問わない。それは別に任せる。それよりも、踏切道を取り巻く複雑な環境について説明していきたい。

 まず、今回の件で山添議員が横断した線路は、勝手踏切とされている。これは、地域住民たちが個々に板や石を敷いて正規のように擬装した踏切道を指す。

 国土交通省は勝手踏切という言葉を当然のごとく用いているが、勝手踏切と呼ぶようになったのは比較的に新しい。

 私は2005年前後から日本全国に点在する踏切の取材を始めた。その取材成果は、2010年2月に『踏切天国』という書籍にまとめている。

江ノ電には50以上の勝手踏切が

 同書は気軽に踏切を楽しむ内容だが、取材の過程では鉄道事業者・市町村の担当者、国土交通省の職員などから話を聞くことになる。その中で、私は江ノ島電鉄(江ノ電)に無数の非正規の踏切が存在することに驚かされた。

 当時、江ノ電の職員に「江ノ電には、こうした踏切はいくつあるのか?」という質問をし、「きちんと把握できていないが、50以上はあると思う」と回答を得ている。江ノ電は神奈川県の藤沢駅と鎌倉駅を約10.0キロメートル結ぶ路線。わずか10キロメートルに50以上もあるとは驚くべき話だが、これは誇張した数字ではないだろう。

 実際に江ノ電の沿線を歩くと、自宅玄関前に線路が敷かれている住宅はいくつも見かける。なかには、簡易な遮断機のようなモノを設置していた踏切道もあった。

 前述したように、非正規の踏切道は世間的に勝手踏切と呼ばれている。しかし、私が取材をしていた2009年の段階で勝手踏切という言葉は流布していない。江ノ電の職員も勝手踏切とは表現せず、私設踏切と呼んでいた。

 いつ勝手踏切という言葉が誕生したのかは不明だが、2012年頃から少しずつ使われ出し、今では国土交通省はじめテレビや新聞も当たり前のように使用している。その普及スピードは驚くほど速い。

 ちなみに、もともとあった道をぶった切るように鉄道は後から勝手にやってきた。だから勝手踏切という呼称はおかしい。「勝手」という言葉には、「便利」「便宜」というニュアンスもあるようだが、歴史的な過程を踏まえれば、勝手だったのは線路の方なのだ。私設踏切と呼ぶ方が実態に近く、妥当だろう。

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