撮り鉄「共産党議員」の書類送検で注目 全国に1万7000以上ある“勝手踏切”という 謎の存在

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問題が複雑化するわけ

 一般的に踏切と呼ばれる構造物は遮断機や警報機、それらに付随する配線などの電気関連施設類で構成されているが、これらは鉄道事業者が管理している。一方、線路と交差する道路や道は道路管理者も関与している。

 線路は明らかに鉄道事業者の施設だが、踏切道は道路法などの縛りを受ける。つまり、踏切と踏切道は似て非なるものということになる。これを同一視しているために、議論は噛み合わなくなる。

 また、踏切道の問題を複雑化させているのが、当事者が鉄道事業者・国土交通省・地元自治体・地元住民と4者もいることだ。これら4者が入り乱れることで問題の論点が多岐に亘り、議論は収拾がつかなくなる。

 地元の市町村が私設踏切を簡単に廃止しなかった理由は、私設踏切を通らなければ自分が耕している農地へ行くこともできないという農家がたくさんあったからだ。多くの私設踏切が黙認されてきたのは、こうした歴史的な経緯もあった。

 2000年、地方分権一括法が施行されたことにより法定外公共物を取り巻く事情は大きく変わった。国が有していた法定外公共物の財産権は、同法によって順次、市区町村へと無償譲渡された。

 他方で、法定外公共物の財産権が市区町村へと移ったこともあり、国土交通省は私設踏切に関してはノータッチの姿勢を強くしている。

 しかも、国土交通省はその総数を把握しながらも、勝手踏切の存在を認めていない。認めていないという前提のため、廃止することや安全対策を講じるといった考えはない。にっちもさっちも行かない問題であることは認めるが、地元自治体・鉄道事業者・地域住民に責任を負わせつつ問題解決を丸投げしているというのが実態だ。

 地域事情に精通していなければ、私設踏切と第4種踏切とを一目で見分けることは難しい。第4種踏切とは警報機も遮断機もない踏切のことで、こちらも危険な踏切といわれる。私設踏切と第4種踏切の大きな違いは、第4種踏切は国土交通省が認める正式な踏切という点だ。正式な踏切のため、地元自治体は安全対策に予算を計上して除去に取り組むことができる。

 私設踏切も正式な踏切として認めれば、地元自治体や鉄道事業者が安全対策に取り組めるのではないか? という意見もあるだろう。しかし、踏切道の新設は原則的に法律で認められていない。私設踏切を公式の踏切として認めることはないのだ。

 くわえて警報機・遮断機のあるフルスペックの第1種踏切は、踏切道などの整備も含めて設置費用は1か所につき約1000万円かかるといわれる。私設踏切を正式な踏切として認めれば、第4種踏切ではなく安全対策を施した第1種踏切への切り替えを余儀なくされる。その負担は鉄道事業者や地元自治体に重くのしかかる。

 私設踏切の多くは沿線人口の少ないローカル線に偏在しているが、我が国を代表するような大動脈にも私設踏切は多く存在している。私が実地調査したところでは、東海道本線にも私設踏切があることを確認している。

 国土交通省は、事故防止・減少の観点から線路の立体交差化や警報機も遮断機もない第4種踏切を廃止するように鉄道会社や地元自治体に発破をかけている。

 地域住民の安全、列車の正常な運転といった観点に立てば、私設踏切への対策は決して怠ることはできない。それにも関わらず、すれ違いによって私設踏切の問題は放置され続けている。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮取材班編集

2021年9月25日掲載

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