撮り鉄「共産党議員」の書類送検で注目 全国に1万7000以上ある“勝手踏切”という 謎の存在

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国会でも問題に

 立憲民主党の津村啓介衆議院議員は、勝手踏切を問題視して国会でも取り上げている。津村議員の国会質疑により、国土交通省が把握している勝手踏切は2021年1月時点で1万7066にものぼる。沖縄県を除く46都道府県に勝手踏切は存在し、特に山奥などの人の少ない場所に偏在している。そして、国土交通省が把握している以上の勝手踏切があることは想像に難くない。

 なぜ国土交通省も実態が把握できていない謎の踏切が、これほど無数にあるのか? それは踏切の歴史を紐解くと見えてくる。

 鉄道がぶった切った道の多くは国道や都道府県道、市道といった正式な道路が大半を占める。それらの道は鉄道事業者と道路管理者がぶった切ることに同意しているのだから問題は起きない。由緒ある社寺だろうと工場の敷地だろうと、鉄道会社が土地を購入していたり、所有者に許諾を取ったりしているなら、それらは勝手踏切ではない。正式な踏切といえる。

 では、勝手踏切はどうして生まれたのか? それは、鉄道がなかった時代、つまり江戸時代にまで遡らなければならない。

 当時の住民が使っていた道は、明治期以降にも道路として扱われなかった。それらは里道・畦道と呼ばれるようになるが、これらは現在も道路法の適用外とされた。つまり、道路ではなく道。

 里道・畦道は、平たくいえば江戸時代もしくはそれよりも昔から地域住民がみんなで使っていた道。それゆえに、誰の所有物でもなく地域住民みんなの所有物ということになるだろうか。里道・畦道のようなモノを法定外公共物と呼ぶ。法定外公共物には、ほかにも農地に水を引くための水路などがある。

 さすがに道や水路といった公共物が、地域住民みんなの所有物になってしまうと困ることも起きる。地域住民は出生や死亡、引っ越しによって増減する。そのたびに所有者が変わってしまうと維持・管理に不具合が生じることもあるだろう。そうした事情から、法定外公共物については国が財産として管理することが決められた。

 法定外公共物は全国に点在している。とても国がすべての法定外公共物に目を配ることはできない。そこで、日常的な維持・管理は市区町村が担当させられた。

 維持・管理だけを任されるという下請け的な扱いだったことも影響してか、無数に存在する法定外公共物は所有権の管理が杜撰だった。道端にあるお地蔵さんや祠などは所有権者不明のまま放置されたものも少なくない。

 明治時代に鉄道が登場すると、みんなのための里道・農道を、みんなのための鉄道がぶった切るように線路が敷いていった。皮肉な話だが、公共目的の道が公共目的の鉄道・線路と衝突したことになる。このようにして、自然発生的に私設踏切が誕生した。

 きちんと管理されていた里道・畦道も江戸時代から先祖代々にわたって使用されてきたことを斟酌し、地元自治体はそこに設置されている私設踏切を簡単に廃止しなかった。

 ここまでを見ても、私設踏切をめぐる諸問題は複雑で入り組んでいることがわかるだろう。さらに細かなことを言えば、本稿ではここまで「踏切」と「踏切道」の2つを意図的に用いている。

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