自分の不倫が原因で妻が「うつ」に… 10年超の罪滅ぼしをし続けた夫が口にした“本音”

  • ブックマーク

Advertisement

「実家に戻ってみないか」

 その日はたまたま妻の母が様子を見に来てくれていたから、和翔さんは時間を気にする必要がなかった。夏美さんに甘えるように「ふたりきりになりたい」と言ってみると、「私が原因でこんなことになったんだから、いいよとは言えないよ」と涙ぐんだ。

「夏美も密かに苦しんでいたんだとわかって、オレたちの人生は何だったんだろうとむなしくなりました。ふたりとも珍しくテンションが下がってしまって。でも6、7年ぶりにホテルに行ったんですよ。やっぱり僕には夏美しかいない。そう思いました」

 長女が高校へ行くようになると、和翔さんは毎日、お弁当作りに励んだ。絢子さんの昼食、自分用を含めて毎日3食分だ。

 そして長女が今年、高校を卒業した。長男は今度、高校を受験する。10年前に比べたら、まったく手がかからなくなった。

「この春、絢子に少し実家に戻ってみないかと言ってみたんです。あちらのご両親は70代ですが、まだまだ元気だし、空気のいいところへ帰ったら少しは気分転換になるとも思ったので。ご両親は一も二もなく賛成してくれました。『和翔さんも休養が必要だよ』と言ってくれて。確かに突っ走り続けた11年でした。このあたりで自分を見つめ直したいし、生活も見直したい。そうしなければ自分が壊れると痛感していました」

 長女の舞さんも賛成してくれた。「お父さん、大変だったね」とねぎらいの言葉をかけられたとき、和翔さんは娘の前で初めて泣いた。父と夏美さんとの関係には気づいていないだろうが、父として後ろめたさはある。母に甘えたいときもあっただろうと思うと、それもせつない。

「ちょっと優しいことを言われると最近、すぐ涙が出てくる。弱っているんでしょうね。夏美は、絢子が実家に帰ってからときどき会ってくれるようになり、ゆるく見守ってくれています。彼女は自分の家庭のことはいっさい言わないんです。『私は要領がいいから大丈夫』と笑っていて。本当はどうなのか気になってはいるんですが」

 妻の病の原因となった夏美さんとの関係が、結局、彼を救っているのだから皮肉な話ではある。

「本当に疲れました。仕事も本当だったら、もっと思い切りやってみたかった。上司には今からでも遅くない、がんばってみろと言ってもらえた。でも最前線でバリバリとはなかなかいきません。自分がいけないのはわかっているけど、本音を言うなら、僕の11年を返してほしい」

 絢子さんは実家に戻って、急速に心身の調子がよくなっているという。本来、一緒にならないほうがよかったふたりなのかもしれないと、和翔さんは寂しそうにつぶやいた。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月15日掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。