事件現場清掃人は見た 孤独死の後始末で遺族と大家がトラブルになった具体的事例

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 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、遺族と大家のトラブルの回避策について聞いた。

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 これまで高江洲氏は、特殊清掃の現場で遺族と大家のトラブルを数多く遭遇してきたという。

「17年前の夏、知り合いの葬儀会社の社長から依頼がありました。30代の男性がアパートの2階で病死して、1カ月経って発見されたのです」

 と語るのは、高江洲氏。

「現場に行くと、玄関の前に初老の女性がへたりこんでいました。亡くなった男性の母親のようでした。ジーンズの膝が汚れ、軍手も茶色に染まっています。彼女は、遺体跡の汚れを掃除していたことがわかりました」

「責任取ってくれ」

 高江洲氏は、母親があらかた汚れを拭き取ったフローリングを再度清掃し、丁寧に消毒した。すると、大家が現れたという。

「大家は、顔を真っ赤にして『臭いが下の部屋までするんだよ!どうすんだよ!リフォームして入居者も決まっていたのに、お前のせがれのせいで契約も解除になっちまったじゃねえかよ!気味が悪いって隣の部屋も出てっちゃたじゃないか、どう責任取ってくれんだよ!』とまくしたてるのです。母親は何も言うことができず、何度も何度も頭を下げていました。見ていて、気の毒でしたね」

 遺体から流れ出た体液が階下の天井にまで染み出し、壁のクロスまで汚れていたそうだ。

「臭いを完全に消すには、リフォームするしかありません。数百万円はかかります。工事代は私の隣で茫然と立ちつくしている母親が払うことになります」

 他には、こんなトラブルもあった。

「20代女性のマンションの部屋で、同棲していた20代の男性が自殺しました。女性が仕事に行っている間に、お風呂場で練炭自殺したのです。マンションは事故物件となってしまったため、女性は大家さんから損害賠償を請求されたそうです」

 こうした場合、遺族に財力があれば問題ない。だが、遺族と大家との間で訴訟沙汰になることもあるという。

「アパートに20年間住んでいた70代の男性が孤独死しているのが見つかり、部屋の原状回復にかかる費用を巡って遺族と大家の間で揉めたケースもあります」

 亡くなった男性は、大手重機メーカーの元社員だった。

「アパートに入居する時に、会社の上司が保証人になっていました。20年も経ってから保証人だからリフォームの代金を払ってくれといわれても、元上司は納得するはずがありません。保証人から『契約時にそこまでの説明は受けていない』と言われると、裁判になった時に貸主側の説明義務が問われます」

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