死刑判決を受けた工藤会トップ 中野会・元会長を軍師に迎えていた説の真贋とヤクザの「忖度文化」について検証する

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2号さんの子供の小さい靴下が本宅で見つかり

 野村被告はその後、「脅しや報復の意図ではない。言葉が切り取られている」と説明していることが明らかにされた。「公正な裁判を要望していたのに、こんな判決を書くようじゃ、裁判長として職務上、『生涯、後悔するよ』という意味で言った」というのだ。が、これをそのまま鵜呑みにしていいか――。

「ヤクザの世界は通常、親分の意向を忖度して実行に移すという思考回路になっています。野村被告が弁明したとはいえ、あの言い方は『裁判長を殺れ』と言っていると捉える組員も少なくないでしょう。警察が警戒を強めることに加え、工藤会の勢力が最盛期の2割ほどに減ってしまっているということもあり、報復は実現しない可能性が高いとはいえ、それでもどこかで裁判長のクビを狙っている組員や準構成員がいるかもしれません。両被告はすぐさま接見禁止になりましたが、タマ(命)は取れないにしても、それに近いことを決行する者がいても不思議ではありません」

 親分の意向を忖度する例をあげればキリはないが、例えば1953年に起こった俳優・鶴田浩二が3代目山口組の組員に襲撃・暴行を受けた事件では、鶴田のマネージャーに3代目の田岡組長が不快感を示したことを組員らが汲み取った結果とされている。

 竹垣氏自身も、「忖度」が目の前を通り過ぎていくような経験をしたことがある。

「初代古川組の古川雅章組長には本妻の他に2号さんもいまして、ある時、2号さんが産んだ子供の小さい靴下を洗濯した後どういうわけか誤って本宅に持って行ってしまったことがあり、その責任を取って、小山元啓本部長が指を詰めたことがありました。そこまでせんでもええでしょと思われるかもしれませんが、小山は純粋な男で、身内を射殺した事件に絡み、親分のために無期懲役に行っています。姐さんもデキた人物やったから何も指まで詰めんでもという感じはありました。結果、夫婦喧嘩は回避されたわけですが」

特殊詐欺ならカネで済むが

 現在、暴力団員らの更生や自立を支援する立場である竹垣氏は今回の判決をどう見たか。
「画期的な判決だと思います。ヤクザから足を洗おう、ヤクザ稼業は割に合わないと考える組員などが出てくる可能性が高まるからです。乱暴な言い方になりますが、ヤクザ同士の抗争で1人殺せば無期懲役、カタギを1人でも殺せば実行犯でも死刑が待っているということです。警察官や国を相手に闘って勝ち残れるヤクザはいない。特殊詐欺の裁判において、代表者責任が認定され、親分にまで累が及ぶケースが出てきましたが、それはカネで済む一方で、カタギの命を狙うとトップの命で償うことになる。つまらない若い衆を置いといたら痛い目にあうという側面もあるし、とにかく現実を見つめてほしいと思います」

 当然、工藤会のみならず他の暴力団は今回の判決への影響も大ということである。

デイリー新潮取材班

2021年9月1日掲載

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