「韓国のアフガン化」を恐れる保守 左派は「自主国防の強化」を訴えて米軍撤収を画策

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2021年8月27日掲載

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 同盟を強化して米軍を引き留めよう、と主張する保守。自主国防を唱え、同盟弱体化を狙う左派。アフガニスタン陥落は韓国の左右対立をさらに鮮明にした。韓国観察者の鈴置高史氏が展開を読む。

米国は自由のためには戦わない

鈴置:米軍のアフガンからの撤収は韓国の保守に大きな衝撃を与えました。米国がいとも簡単にアフガンを見捨てたからです。

 ことに今、文在寅(ムン・ジェイン)政権は米国との関係を悪化させている。そのうえ、2022年3月の大統領選挙で再び、反米左派政権が選ばれる可能性がかなりある。保守系紙は「韓国もアフガン同様に見捨てられる」と悲鳴をあげました

 8月17日、東亜日報は社説「米が見捨てたアフガン、軍と自衛意識が崩壊した国の悲劇」(日本語版)を載せました。引用します。

・米国が、米軍撤退後のアフガン政府の没落を予想できなかったわけではない。単に予想した時期よりも早くて驚いただけだ。没落を予想しながらも米軍は撤退した。米国がこれ以上アフガニスタンに残ることに対する国益がなかったためだ。
・米国が他国の自由と人権だけのために限りなく軍隊を駐留させる余力も意志もないということをアフガン事態が物語る。国民の生命と自由を守ろうと自ら努力しない国を国際社会が助けるには限界があるという厳然たる現実を直視しなければならない。

同盟は「ギブアンドテイク」

「米国はもう、自由や人権という理念のためだけには戦わない」と韓国人に警告を発したのです。ただ、この社説では「韓国も見捨てられる可能性」にまで言及しませんでした.

 しかし、同紙は翌18日の社説「バイデン氏『米国に国益なく、戦う意思がない国のために戦争しない』」(日本語版)で「韓国のアフガン化」に焦点を当てました。ワシントン時間の8月16日、J・バイデン(Joe Biden)大統領がはっきりと「国益のない戦争には関わらない」と宣言したからでしょう。

・バイデン米大統領は16日、イスラム主義勢力タリバンが首都カブールを制圧し、アフガン国民のカブール脱出の大混乱が起こる中、「軍事関与を終わらせることにした決断を後悔しない」と断言した。
・そして、「(アフガンでの)米国の任務は国家建設ではなく、テロの攻撃を阻止することだった」とし、「これ以上、国益のない戦争に留まる失策を繰り返さない」と強調した。
・韓国は日本による植民地支配からの解放後、米国との同盟の中で国を建設し、発展させてきた。歴史的に見ると、冷戦時代のように一方が主に与え、もう一方は主に受ける同盟関係は例外的だった。
・同盟は基本的にギブアンドテイクの関係だ。同盟国にとって、軍事的にも経済的にも投資価値がある国家になるどころか負担になるだけの国は、いつでも同盟関係から脱落し得るという教訓をアフガン事態から得なければならない。

アフガンと韓国の根本的な勘違い

――韓国も「負担になるだけの国」との認識ですね。

鈴置:韓国は米国に守ってもらっている。というのに、中国包囲網には加わらない。米国からすれば「ギブばかり」。韓国はアフガンと同じ「恩知らず」、あるいはアフガン以上の「裏切り者」です。アフガンは韓国とは異なって、中国にすり寄ってはいませんでしたからね。

 中央日報は、文在寅政権が米国に要求して2021年の米韓合同演習の規模を縮小したことが「アフガン化」を呼ぶと指摘。そして、それこそが同盟の弱体化を願う北朝鮮の思うつぼ、と批判したのです。

 社説「アフガン事態が韓米同盟の重要性を見せた」(8月17日、日本語版)から引用します。

・アフガン事態は他人事でない。空軍と海軍で相次ぎ起きたセクハラ事件や警戒の失敗、韓米合同演習の縮小などをみると懸念せざるを得ない。軍隊の命とされる軍規が崩れれば、アフガンのようになる。
・北朝鮮は核兵器とミサイルを継続して増やしている。韓米同盟がどれくらい重要なのかも米軍が撤収したアフガンの運命から如実にあらわれた。最近、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)労働党副部長が直接在韓米軍の撤収を求めたではないか。
・韓米同盟は朝鮮半島の安全保障の柱だ。政府と軍はアフガン事態を他山の石にして韓米同盟の強化と強軍維持に全力を尽くしてほしい。

――韓国は「同盟ただ乗り」が許されると考えていたのですか?

鈴置:朝鮮半島は海洋勢力にとって戦略的に重要な地域。米国や日本にわがままを言っても通る、と韓国人は考えてきました。実際、これまでは通用してきましたし。

 アフガン政府もそう思い込んでいた。自分の国は米国だけではなく中国やロシアなど、大国にとって要衝の地にある。自ら守らなくとも、米国から見捨てられることなどあり得ないと信じていた。

『FOREIGN AFFAIRS』の「Why the Taliban Won」(8月17日)も「アフガン政府の勘違い」を強調しています。韓国人の「勘違い」と同じ構造です。

在韓米軍撤収は米国民も支持

――「保守本流」の朝鮮日報はどう書いたのですか?

鈴置:8月17日にはアフガン関連の社説は載せず、代わりに長文の解説記事を掲載しました。「アフガンが見せた現実…米国の国益にならねばいつでも去る」(韓国語版)です。

 筆者は同紙のエース記者というべき金真明(キム・ジンミョン)ワシントン特派員と、ファン・ジユン記者です。これを読んだ韓国人の多くは、来年春の大統領選挙では反米左派候補に投票すまい、と思ったことでしょう。

 この記事は世界中の人の目をクギ付けにした写真――「米軍の超大型輸送機にすし詰めに積みこまれたアフガンの人々」「離陸した輸送機から落ちる『物体』」――など8枚の写真とともに、米軍がアフガンから離脱する姿を伝えました。

 そのうえで識者の談話を交えながら「韓国も見捨てられないか」を論じたのです。以下は、朝鮮日報が独自に聞いた米韓の識者コメントです。

・V・チャ(Victor Cha)CSIS副所長=朝鮮半島の現状が変化すれば、米国の世論も変わる。例えば、韓国の“平和政権”に同意して(前大統領の)トランプ(Donald Trump)が米軍を撤収しようとしていたなら、それが“偽の平和”であろうと、米国内には支持する人が多かったはずだ。
・E・リビア(Evans Revere)元国務副次官補=北朝鮮はアフガンの教訓を韓国にも適用すべく韓国の内部分裂を画策する。韓米同盟を弱体化することで米国の韓国への駐屯の根拠を弱めようと、努力を倍加するだろう。
・崔剛(チェ・ガン)峨山(アサン)政策研究院副院長=現地政府が同盟の役割を果たせない時、いつでも撤収できるということを(米国は)見せ付けた。米国のインド太平洋戦略など、韓国が同盟としての役割を最大限に果たしているか、考える必要がある。

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