事件現場清掃人は見た 服毒自殺した「50代男性」の部屋で感じた“屈辱と反省”

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 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、今も忘れられない悔しい思い出を聞いた。

 高江洲氏が特殊清掃を始めて間もない頃の話である。

「知人の葬儀会社の社長から依頼でした。50代の男性がマンションで服毒自殺し、死後2カ月経って発見されたそうです」

 と語るのは、高江洲氏。

「社長からは『今度の現場は遺品の撤去もしていないから、ちょっと生々しいかもしれないけど、作業は消毒だけでいいから頑張ってみてよ』と言われました。なんだか嫌な予感がしました」

「そこの汚れ、拭いてよ」

「葬儀会社の担当者によれば、亡くなった男性はIT関係の個人事業者で、自殺の原因は離婚だといいます。奥さんが家を出た直後に命を絶ったそうです」

 机の上にあるパソコンの周りは書類だらけで、書棚には理学系の本がずらりと並んでいた。

「男性は、パソコンに向かう肘掛け椅子に座ったまま亡くなっていたそうです。朝から夜遅くまでパソコンの前に座り、コツコツと仕事をしていた男性にとって、奥さんは唯一の話し相手だったのかもしれません。二人の間にどんないさかいがあったのか知るよしもありませんが、奥さんに出て行かれた男性は、一人になってしまった人生に行き詰まったのではないか」

 そんなことを考えながら、高江洲氏は消毒作業を行った。

 そしてひと通り作業を終え、部屋を出ようとすると、葬儀会社の担当者からこう言われたという。

「おい、そこの汚れ、拭いてよ」

 高江洲氏は、

「いや、それはできませんよ。私が引き受けたのは消毒だけですから」

 すると担当者は、

「なに言ってんの?ご遺族がきれいにして欲しいと言ってるんだから、ちゃんとやってよ。掃除屋だろ?仕事じゃないかよ」

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