不倫の恋が「癒し」だったのに…お相手女性が出産、突然の失踪 アラフィフ男の転落と後悔

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自分はダミーだったのか

 彼女と親しくしていた女性社員からも、急に連絡がつかなくなったと聞いた。だがその社員曰く、「子どもが生まれたら結婚するかもしれないとも言っていた」と。そういえば早く認知しなければと彼が彼女の家で言ったとき、「認知はいつでも大丈夫、私が元気になるまで、もうちょっと待って」と言われたのを思い出した。

「彼女の立場なら、一刻も早く認知してほしいと思うものではないのかと感じたんですが、僕のことをそれだけ信頼しているということだろうと納得していたんです。なんだかおかしい。もしかしたら子どもは僕の子ではないのかもしれないと疑惑がわきました。しかも彼女と親しかった社員によれば、『あそこのマンションにもいないのよね』と。彼女がいたのはマンションではなく、古いアパートだった。気になってさりげなく尋ねると、彼女の家は小綺麗なマンションだという。しかも場所はアパートのすぐ隣。僕は騙されていたのかと衝撃を受けました」

 そうだとしたら、彼女は何のために啓一さんを騙したのか。ただ面食らっている彼に、その社員はこっそり告げた。

「彼女、学生時代の元カレと再会してつきあっていたみたい。でも彼は離婚調停中だから、離婚が決まるまでは結婚できないと言ってましたねって」

 自分はダミーだったのか、あるいは結婚できなかったときのためのキープ要員だったのか。もしくは本当に子どもは自分の子で、それでも離婚しようとしない自分に腹を立てて、美智さんが誰かに頼んで写真を撮らせ、妻に写真を送りつけてきたのではないか。啓一さんはさまざまなことを考えたが、どれが本当なのか答えは出ないままだ。

 彼は妻に会い、離婚届を渡した。妻には「オレの子じゃないよ、ただ部下の見舞いに行っただけ」と告げたが、妻は表情ひとつ動かさなかった。

「何もかもイヤになりましてね、会社を辞めて退職金を妻に渡して、僕は実家に越しました。ちょうどひとり暮らしの母親が体調を崩していたこともあって、介護しながら実家で余生を暮らすのも悪くないかと」

 あれから2年。少し認知症がひどくなってきた母と、穏やかな日々を過ごしている啓一さん。最近は庭で野菜を育てている。たまに21歳になった息子から安否確認のLINEがある。「元気だよ」とだけ返す。娘と元妻からはいっさい連絡がない。

「美智は元気なのかと思うこともあります。結婚して幸せになっているなら、それでいいけど……」

 本当は自分の子かどうか知りたい気持ちもあるだろう。彼女の現状も追いたいだろう。だが今は行動する気力がない。

「自分の人生は2年前に終わったんだと思います」

 言葉少なにそう言ったが、まだ50歳。この先の人生は長い。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月18日掲載

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