フランス人はワクチン義務化に猛反発 欧米では低い接種完了率にマクロンの焦り

国際

  • ブックマーク

Advertisement

“ワクチン実質義務化”にフランス人の反発が強まっています。(以下、7月31日時点の情報)

 7月12日、エマニュエル・マクロン大統領は「8月1日から飲食店、長距離電車、病院等の施設、7月21日から映画館等50人以上を収容するレジャー・文化施設へ入るためには衛生パスを提示することを義務付ける」と発表しました。衛生パスとは、コロナウイルスワクチンを2回(既に罹患している場合は1回)接種したこと、またはPCR検査が陰性だったことなどを証明するもので、保有者の氏名と生年月日、ワクチン接種状況がQRコードと共に記載されています。違反すると施設管理者に1年の懲役と45000ユーロ(約580万円)の罰金が科されます。

 また看護師など医療従事者や高齢者入居施設等の介護者には、9月15日以降、コロナワクチン接種が義務づけられました。(7月19日にブリュノ・ル・メール経済・財務・復興大臣が「違反者には罰金45000ユーロは過剰」と発言し、後に1500ユーロに変更されました)

 もともとマクロン大統領は、2020年11月、ワクチン導入時に「予防接種は強制しない」と発言していました。とはいえ、現在のフランスの感染者数は1日21493人(7月23日)で、累計死者数は11万2000人。感染数の増加にもかかわらずなかなか進まないワクチン接種に焦りがあったようです。

 大統領発表の3日前(7/9)には、その心境を代弁するような『ワクチン未接種者に悩まされる大統領、我慢の限界』という見出しの記事がOh!mymagというサイトに掲載されました。デルタ株の流行、第四波への警戒、さらにフランス人の多くが長距離を移動する夏のバカンス目前、といった事情により、大統領も苛立ちを隠せなかったようです。

 バカンスシーズンにレストランすら行けなくなる、という旨の大統領発言後は、ワクチンセンターに予約が殺到。1日で224万件の予約があったそうです。発表前には38.5%だったワクチン接種完了率(2回のワクチン接種、コロナ罹患者は1回接種)は、3日後の7月15日に40%を超えました。7月23日の時点では44.4%まで上がり、1回以上ワクチンを接種している割合も57.9%になりました。

 それでも、フランスのワクチン接種完了率はヨーロッパ諸国の中で高い方とは言えません。隣のドイツが48.6%、イタリア47.4%、スペイン54.1%なのと比べると、まだ同程度という数字です。さらにイギリスは55.2%、米国は49.5%ですのでマクロン大統領の焦りが想像できます。

義務化をめぐり反対デモ

 これでワクチン接種に関しては一件落着……と思いきや、そこはフランス。

 大統領の発言直後からネットでは反発の声が上がり、翌々日の「パリ祭(フランス独立記念日)」の日と週末に、フランス全土で衛生パスに反対するデモが行われ、バカンスシーズン中であるにもかかわらず11万4000人が参加したのです。翌週土曜日に行われたデモは16万1000人が参加し、更に翌週の土曜日は20万4000人と勢いを増し続けています。

 当初とくに目立ったのは、看護師をめぐる義務化ルールに対する抗議です。9月15日以降「ワクチンを接種していない看護師は仕事をできず、給与も払われず、失業手当も受け取れない」とオリヴィエ・ヴェラン連帯・保健大臣が発表したためです。これにより「看護師を守れ」、「1年前はヒーロー扱いしていたのに今度はモルモット扱い」といった反発の声が、ネット上やデモ会場であがりました。

 こうした反対意見は「衛生パスは『恥のパス』」、「独裁をゆるすな」、「自由へのテロ」といったハッシュタグと共にTwitterで拡散され、「マクロンは辞任を!」という声までも日に日に増えています。

 義務化反対デモには、政治活動家、看護師、公務員などのほか、2年前からガソリン増税などに反対するジレジョンヌ(黄色いベスト)の参加者も加わっているといわれています。デモの多いフランスですが、今回は特定の職業というよりワクチン接種対象者、つまり全国民が対象なので、より広い層が参加しているといえます。

 ネットやデモの盛り上がりをよそに、衛生パス法案は7月25日に国会で賛成156、反対60という投票結果で採択されました。

 右派政党の「国民連合」は衛生パス法案の設立を非難、「レ・パトリオット」のフロリアン・フィリポ党首は「衛生の名の下に私たちの自由が破壊された」として衛生パスに反対するデモだけでなく、政府の「アンチコロナ」アプリに対抗して「アンチ衛生パス」アプリを作成するなど、団結して衛生パス法案に反対するよう呼び掛けています。

 一方、左派の「不服従のフランス」党首ジャン=リュック・メランションも、現在は無料のPCR検査が秋から有料にされることなどに触れ「法案はばかげていて、不公平で横暴(権威主義的)」だとしています。

 ワクチンそのものに反対するというよりは、ワクチン接種を強制すること、また接種者と未接種者の差別的な扱いを問題視しているのが特徴のようです。デモ参加者からも「私は2回ワクチンを接種していますし、衛生パスを既に持っています。でもテラスでコーヒーを飲むためにこれを提示しなければいけないというのには反対です。これは自由を奪う行為ですから」という意見が聞こえてきました。

 フランスの法律(公衆衛生法)に「誰もが治療を拒否するか、受けない権利を持つ」と規定されているから、義務化は違法だとの主張もありますが、こちらは「公衆衛生上やむを得ない時には例外が認められる」という主旨が付記されているという指摘もあり、議論が白熱しています。

 様々な非難が高まり、ワクチンの強制を含む衛生パス法案は憲法によって保障されている権利と自由に違反している、という意見が不服従のフランス、社会党、共産党など野党議員74名から提出され、8月5日に憲法評議会にかけられることになりました。

次ページ:現場からも困惑

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。