フランスの極右政党から立候補した日本女性 「移民受け入れで日本はこの国を反面教師にしてほしい」

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周囲の反応

 教職員に左派が多いのは、日本もフランスも同じ。それでも、犬飼さんが“極右政党”から出馬すると知った数人の同僚からは、「頑張って」「応援するね」というエールがあったそうです。その一方、

「二人の息子は冷めた反応でした。『今さら何をしてるの? フランスは既に移民を多く受け入れているし、こんな状態になってからではもう遅いんじゃないの?』というようなことを言われました。長男は30歳になりますが、息子と同じ世代のフランス人の多くは、政治に無関心のようですね。私とほぼ同じ年齢のフランス人女性でも、『フランスと言ってもいろんな国の人が混ざっているし、フランス人なんているのかしら? ヨーロッパ人ということよね』などと言う人もいました。大変残念なことです。このままではいけないと思います」

 こうした想いを聞くと、やはり国民連合の党員らしいという印象です。自らも移民である犬飼さんは、移民についてどうお考えなのでしょうか。

「移民を受け入れたことでフランスは変わりました。例えば、ある宗教に忠実な一部の人たちは、宗教の教えが最優先で、国の法律は大事ではないと言います。その宗教の発祥地なら、その宗教に沿って法律がつくられているのだから、問題は起こらないでしょう。でも、歴史的にキリスト教文化が根付いているフランスにおいては、別の宗教を基にした考え方は相入れないこともあります。

 人道的理由で受け入れた移民が、フランスに対する感謝や、法律や慣習を尊重する気持ちもなく、フランス文化に馴染もうともしなければ、国の秩序は乱れます。不法滞在者や、あるいは正式な移民でありながらも罪を犯す移民を、いつまで許容し続けるのでしょうか。例えば、イル・ド・フランス(パリを中心とした地方)のフルリー・メロンジス刑務所の男子受刑者は、移民3世や外国人が8割以上を占めるのです。

 誤解しないでいただきたいのですが、移民を排斥すべしと言いたいのではありません。フランス人と結婚している方や、フランスが好きでここに住み、働いて納税している外国人には、何の問題もありません。

 日本も対応策が不十分なまま外国人を無差別に受け入れたら、フランスと同じ道を辿ることになると思います。日本で働く移民が、給料を日本で消費せずに海外に送り続け、日本の文化や慣習を尊重しなければ、国の秩序はどんどん乱れます。フランスは移民受け入れという点では、日本の数十年先を行っています。特に策のないまま移民を受け入れることで国がどう変わってしまうのか。ぜひ日本はフランスを反面教師にして、対策を練ってほしいです」

 そんな犬飼さんが唱える移民受け入れ策は、例えばこんなものです。

「移民としての申請を受けた1年後に、フランス語を習得しているか、フランスの生活に適応していこうという意思と努力が認められるか、フランスが好きで住みたいのか、フランスの歴史や文化を尊重しているのかなど、移民の長期滞在やフランス国籍授与をケースバイケースの審査で進める必要があるのではないでしょうか」

 記憶も定かでない頃からフランスに恋い焦がれ、国籍を変えるほどにフランスを想う犬飼さんの提言だからこそ、重みもまた違ってきます。

 移住者である私としても、満たすべき条件を国が移民に対してしっかりと提示しなければ、反移民運動が起きたり差別や嫌悪につながったりと、双方がつらい思いをすることになるというのは、現在のフランスを見て感じるところです。国民連合のすべての政策のお話を伺ったわけではありませんが、移民政策に関しては、日本もフランスに学ぶべき点はあるかもしれません。

 選挙では決選投票まで進むも、最終当選を逃した犬飼さん。私がお話を伺ったのは結果が出る前でしたが、

「とにかく地元の人の話を聞きに行きます。何が不満なのか、どうして欲しいのかを、まず低所得の人からですね。話を聞いた上で、優先順位をつけて実行していきたい。そして来年の大統領選挙まで国民連合の仲間とフランスのために頑張りたい」

 とおっしゃっていました。意図していなかったとはいえ、強い決意をもって踏み出した政治の道に、今後もぜひ挑戦し続けて頂きたいです。

ヴェイサードゆうこ
翻訳家・ジャーナリスト。青山学院大学国際政治経済学部卒。ITベンチャーから転身し、女性向けweb媒体のライター、飲食専門誌の編集記者として執筆。2016年よりフランスに移住し、現在はYouTubeで現地情報を発信中(http://bit.ly/2uQlngQ )。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月19日掲載

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