文在寅が菅首相をストーカーするのはなぜか 「北京五輪説」「米国圧力説」……やはり「監獄回避説」が有力

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窮地を救うか、二階幹事長

――またぞろ、二階幹事長が登場しました。

鈴置:7月14日、訪日した韓日議員連盟の金振杓(キム・ジンピョ)会長に「ぜひ、大統領にお越し下さるよう伝えてほしい。歓迎する」と語りました。

 韓国としては残された最後のカード――親韓派に招待状を発行させる――を切ったつもりでしょう。これまでの作戦がすべて水泡に帰してきたからです。

 朝日新聞には社説「日韓関係 首脳自ら事態の打開を」(5月12日)で応援してもらえました。でも、菅首相も世論も動きはしなかった。「朝日が日韓首脳会談をやれと言うのなら、しない方が日本のためになるのだな」と考える人が増えているからです。

 地方の領事も含め、韓国の外交官が日本の識者を訪ねて「米国も韓米日の協力体制強化を望んでいる」などと執拗に説きもしました。が、それに引っかかって「日韓首脳会談をすべきだ」と騒いだ日本人は限られました。

 韓国政府、ことにこの政権の流す情報はいい加減であることが次第に知られてきて、下手に受け売りすると「韓国の使い走り」に認定されるからです。

――「二階カード」でどう変わるのでしょう?

鈴置:二階幹事長の発言により、青瓦台は韓国内で「東京五輪参観は日本から招待があったからだ」と説明、訪日反対を抑えることが可能になりました。

 さらに韓国側は二階発言をもってして「日本は本格的な首脳会談を約束した」と見なし、その実現を首相官邸に迫ると思われます。それを菅首相が受け入れるか、無視するかは分かりません。

 二階発言の前から菅首相も、文在寅大統領が五輪のために訪日すれば「外交的に丁寧に対応する」と述べ、儀礼的な会談は受け入れると表明しています。韓国はその時間を延ばせばいいわけです。

朝日は「日本が悪い」と言うけれど

――来年5月、韓国に新しい大統領が誕生したら、菅首相は首脳会談を開くのでしょうか。

鈴置:日本政府は国際法違反状態の是正を強く求めているので、誰がなろうが「是正」なしで首脳会談に応じるのは難しい。菅首相が降板して脇の甘い人が首相になれば、変わるかもしれませんが。

 注目すべきは日本の世論です。文在寅政権の慰安婦合意の事実上の破棄と、韓国最高裁判所の「自称・徴用工判決」により「韓国は平気で約束を破る国だ」との認識を日本人が確固として持ちました。

 韓国の政権が変わろうが、日本国内から「首脳会談を開くべきだ」との声は出にくくなっている。この変化が実に大きいのです。

――しかし、朝日新聞のように「日本の責任」を唱える人も未だにいます。

鈴置:要は「日韓の仲が悪いのは日本の植民地支配が原因である」との説明です。しかし、その「日韓関係は特殊」との主張も、次第に説得力が薄れています。

 韓国との首脳会談を開かないのは日本だけではないからです。北朝鮮は首脳会談を開かないどころか、韓国のおカネで作った南北共同連絡事務所まで爆破しました。

 これまで南北首脳会談を開いたら、韓国から何らかの形でおカネが送られてきましたが、それが来ないからでしょう。

 中国も韓国との首脳会談にはなかなか応じない。2017年12月15日、文在寅大統領は北京大学で講演し「韓国も小さな国ではありますが、その夢(中国の夢)を共にします」と語りました。覇権主義を隠さなくなった中国におべっかを使ったのです。

 ところが今年5月21日の米韓首脳会談では共同声明に「台湾海峡の平和と安定性の重要性」を盛り込んだ。今度は、中国を牽制する米国におべっかを使ったのです。国家の代表が行く先々で言葉を変える韓国は、中国もまともな相手として扱わないのです。

「日韓」ではなく「韓国」の特殊性

 米国は韓国との首脳会談を持ちますが、それは韓国を矯正するのが目的。世界の警察官としては会って説諭する必要があります。一般人は「危ない人」と距離を取るのが普通です。

 平気で約束を破り、堂々と他人を裏切る韓国と首脳会談を開こうとする国はまず出てこない。何を取りきめようが、すぐに反故にされるからです。

 日本と韓国がうまくいかない原因は「日韓関係の特殊性」ではなく「韓国の特殊性」にあるのです。

――確かに、韓国は特殊な国です。

鈴置:困ったことに、韓国人にはその自覚がありません。すっかり信用を失い周辺国から相手にされなくなっているというのに、自分たちの約束破りを厳しく指弾する韓国の新聞記事は読んだことがない。常に「他人が悪い」と書くのです。

 文在寅政権が次の政権に変わろうと、韓国人の無自覚に変化はないでしょう。日本人も、日韓首脳会談を容易には開く気にはならないと思うのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月16日掲載

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