今ではありえない“プロ野球酒豪列伝” 「元祖あぶさん」は二日酔いでスーパーキャッチ

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ほろ酔い加減でマウンドへ

 前出の石戸から酒仙投手の系譜を継承したのが、今井雄太郎(阪急→ダイエー)だ。ブルペンではエースの山田久志も霞むほどの剛球を投げるのに、実戦のマウンドでは、あがり症が災いし、なかなか実力を発揮することができない。

 そんな矢先の78年5月4日の南海戦、試合前に梶本隆夫投手コーチがビール入りの紙コップを差し出し、「これが最後のチャンスやから飲め」と無理矢理2杯飲ませた。

 酒の力を借りて好投できるようにという一か八かの作戦だったが、ほろ酔い加減でマウンドに上がった今井は息苦しさを感じ、立ち上がりからアップアップ。だが、苦しさから逃れようと、余計なことは考えず、ひたすら捕手の構えるミット目がけてボールを投げつづけたことが吉と出る。

 8回途中までわずか1失点に抑え、“ブルペンエース”を卒業した今井は、同年8月31日のロッテ戦で史上14人目の完全試合を達成するなど、山田と並ぶエースに成長した。

 20歳ごろに一人でビールの大瓶46本を空けたこともあるという酒豪は、キャンプ地で深夜、泥酔して宿舎に戻り、間違えて上田利治監督の部屋に入ったエピソードでも知られる。

 驚いた上田監督が「誰や!」と尋ねると、「ハイ、今井雄太郎であります。ただ今帰りました」と答え、這う這うの体で立ち去った。酔いもいっぺんに覚めたことだろう。

 管理野球の対極にありながら、愛すべき一面もある伝説の酒豪たち……酒に限らず、豪放磊落な個性派選手のさらなる登場が待たれる。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年6月22日掲載

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