妻殺害の「講談社元次長」が二審有罪で“自主退職” 大学時代の仲間は「支援する会」を設立

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一審判決にあった事実誤認

 いざ正式に会を立ち上げ、活動していくにあたり、朴被告の担当弁護士の協力を得て、膨大な裁判資料を読み込んだという。すると、二審判決の“瑕疵”に気づいたという。

「一審判決では、現場には15カ所、佳菜子さんの血痕があるとされ、その証拠に基づいて『自殺ストーリー』はありえないと退けられたのですが、二審では新証拠によって現場に28カ所の血痕があったことが判明しました。つまり、一審判決には重大な事実誤認があったのです。二審判決はその事実誤認を認めた上で、全く新しい理由をもって、自殺ストーリーを退け、有罪判決を下している」(同前)

 血痕は自殺ストーリーが成立するか否かで、裁判で重要なポイントとなっていた。佳菜子さんの左前額部の挫裂創から流れ出たものとされているが、生きているうちのものだったか、もしくは脳死状態の時のものだったのかで、評価が変わるのである。なお、完全に死んだ状態だと心臓が止まり、血は流れない。判決では、この挫裂創は朴被告が佳菜子さんを階段から突き落とした際にできたもので、その時、佳菜子さんは脳死状態だったとされている。

 確かに高裁判決には、「原判決の上記判断は、客観的事実及び経験則等に照らして不合理であり、上記のような現場の血痕の状況をもって、自殺ストーリーを排斥する根拠とすることはできない」と、一審の判断の誤りを指摘している箇所がある。

 だが、新しい血痕の状況を検証し直し、遺体に血痕が付着していないのは不自然であること、首を括った際に利用したとされる階段の手すりの留め具にジャケットの繊維が検出されていないこと、首を締められた際に出る尿班が階段から検出されていないことなどを合わせ、改めて自殺ストーリーを排斥し、「原判決の判断理由には一部是認できないところがあるものの、本件殺人の事実を認定した原判決の判断は、結論において相当である」とした。

 刑事裁判の経験が豊富な弁護士は、次のように解説する。

「一般論として刑事事件の控訴審は、第一審の審理に不十分な点があると考えた場合、その点について自ら審理することも、事件を第一審裁判所に差し戻すこともできます。犯罪の成否自体に関する重要な事項は、本来、第一審で十分に審理すべきことですから、原則として差し戻すべきであり、このことは特に、裁判員裁判の対象となるような重大事件において強く当てはまるといえます。

 今回のケースでは、朴被告の妻が自殺をしたという弁護側のストーリーを退けた第一審の判断について、控訴審は、前提事実を誤っているとした上で自ら審理し、自殺ストーリーはやはり排斥できるとしました。差戻しをしなかった理由としては、既に一定程度、自殺ストーリーについて裁判員を含む合議体で審理がされていたこともありますが、結局、結論は変わらないと判断されたことが大きかったと思われます」

1カ月かけて準備したホームページ

 佐野さんはこう訴える。

「『市民を有罪にするのは市民の手で』が裁判員制度の大原則である以上、一審の判断に重要な誤りがあったことが判明した時点で、高裁は一審に差し戻すか、無罪判決を言い渡すべきです。一審の有罪理由を棄却し全く新しい理由をもって有罪判決を下すことは、高裁には許されていない。重大なルール違反だと我々は考えています」

 こう語る佐野さんたちは、裁判を検証する膨大な資料を作成し、会のホームページにアップした。「朴鐘顕くんの裁判 2審判決文の構造と疑問点」というパワーポイントで作成された資料はA4用紙で18ページ、難解な法律用語などを平易な文章に直し、会の主張をまとめた「私たちが考える朴鐘顕くんの裁判に関しての重要な問題点」は、38ページにも及ぶ。

「みな仕事をしながらでしたので、休日を費やしながらの大変な作業でした。ホームページを立ち上げたのが5月1日。署名は約600通集まっています。ホームページを見て賛同し、電話やメールで署名してくれる人が増えています。6月からは、署名サイト『change.org』を使用した、電子署名も始めました。目標としては、上告趣意書提出に添付するものとして、直筆で1000。もちろん、このような数字が裁判所にインパクトを与えられるものではないことはわかっています。まずは、このような公正ではない裁判の真実を多くの方に知っていただき、世論の動きを作りたいという思いです。お子さんたちもお父さんの無実を信じ、帰りを待っています」(同前)

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