「田代まさし」に薬物を売った男性が著書を出版 逮捕されるまでの一部始終

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“スピードボール”

 慌てた倉垣氏は、証拠隠滅をはかった。

《俺の身体の中には、昨夜キメたシャブがまだ駆けずり回っている。田代がパクられたにもかかわらず、自分の血管を的にダーツゲームを楽しんだのだ。だが、もう遊びは終わりや。早急に身体からシャブを抜かないといけない。今パクられるとアウトだ。身の回りには使用済みの注射器数本、ハッパ(大麻の隠語。マリファナとも呼ぶ)が10グラムぐらいあった。注射器とハッパを処分しても、身体のシャブは処分できない。一週間か十日ほどかけ、身体から抜けるのを待つしかない。》

 倉垣氏は、空き缶に注射器を入れ、手で押しつぶした。そうすれば注射器が缶から出てこないし、振ってもカラカラと音をたてない。覚醒剤が入っていたパケ(薬物を入れる小袋)も空き缶に詰め込み、レジ袋に入れた。そして仲間に電話をかけ、車をまわしてもらって京都駅へ。新幹線で知り合いの僧侶がいる小倉に向かった。そして、小倉のお寺でしばらく囲ってもらったという。

 倉垣氏が覚醒剤を常習するようになったのは2009年。タレントの酒井法子が覚醒剤取締法違反で逮捕されたニュースを見たのがきっかけだった。覚醒剤を炙って吸っている再現VTRに、魅せられてしまったのだ。

 覚醒剤にヘロインを混ぜると、効き目が早い“スピードボール”になる。倉垣氏は2009年にこれを試している。

《俺は左腕を差し出し親指を軽く握った。目は注射器に奪われ他には何も見えない。突然プツリと針が血管に入ってきて、ゆっくりと注射器を少し引く。するとトロンと血が注射器に流れこんできて、液体の中に小さな赤い龍が生まれる。それをゆっくり押し込んでいく。(中略)いきなりグラっと視界が揺れて少し吐き気が襲ってくる。それを我慢していると心臓が飛び跳ねだして、スピードボールが心臓から全身の血管を駆け巡っていくのが分かる。バーカウンターに座っているはずなのに、ふわふわのソファーにドカーンと座り、そのまま温泉に首まで浸かっているような感覚になっていく。とても起き上がれそうにない。しかし首から上の頭だけは、いつの間にか宇宙まで飛んでいってしまった。》

 倉垣氏は、お寺に居た間、薬漬けだった過去がフラッシュバックのように蘇った。過去は消せないが、未来は自分次第で変えていくことができると思うようになった。逮捕される覚悟で大阪へ戻り、今までの罪を償う決心をした。

《二〇一〇年十月十日、俺は逮捕された。
 大阪の阪急豊中駅近くのビルに入ろうとしたところを六、七名の刑事に囲まれ、身柄を確保された。》

 倉垣氏は2011年2月に懲役3年の判決が下り、13年5月に出所。15年に八重山の離島に移住した。

《俺は南の島の楽園で、家族と暮らしている。あの日、マリファナを握って田代さんと握手をしていなければ、今の俺はなかっただろう。ひょっとすると、まだどこかで売人をしていたかもしれないし、どこかで野垂れ死んでいたかもしれない。》

『薬物売人』では、薬物売買の内幕を詳細に記述している。マリファナの客は癒しを求め、コカインの客は、創造力を高めるために服用する。しかし、単に楽しむための薬物は、いずれ生きるために欠かせなくなり、人生を破滅させるという。

デイリー新潮取材班

2021年6月1日掲載

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