肥満から脱却できない本当の理由は? 「ヤセ菌」を活用してダイエット

ライフ 週刊新潮 2021年5月27日号掲載

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「食物繊維」と「オリゴ糖」

 肥満解消には有益菌をヨーグルトなどの発酵食品から取ることと、もう一つ、すでに体内に存在する有益菌の数を増やす、活性化させることが重要だ。それには有益菌が好む“エサ”を与え、彼らを元気に育てなければならない。

 有益菌が好むエサとは、「食物繊維」と「オリゴ糖」である。

 オリゴ糖は、人の体が通常エネルギーとして利用する糖分とは違い、胃で吸収されにくく腸まで届く“難消化性”が多い。そのため腸内細菌に影響を与え、肥満を軽減することがわかっている。

 腸内細菌の働きはさまざまだが、大きくは「発酵」と「腐敗」活動に分かれる。その働きからみると、オリゴ糖のような糖分や食物繊維を食べて発酵させ、乳酸や短鎖脂肪酸などをつくることで腸内を「弱酸性」にする有益菌と、タンパク質や脂肪を食べて腐敗させ、発がん物質や毒性物質をつくって腸内を「アルカリ性」にする有害菌がある。

「糖分や食物繊維が豊富な食事で腸内が酸性に傾くと、有害物質はつくられず、また外から入ってくる悪い細菌も多くはアルカリ性を好むため、腸内に入っても酸によって死んでしまいます」(後藤医師)

 一方でタンパク質や脂肪が多い、例えば脂ぎった肉ばかり食べれば、腸内をアルカリ性にする菌が増殖していく。

「食物繊維とは、言い換えれば“栄養がない”こと」

 と語るのは先の中路氏。

「かつて食物繊維は“食べ物のカス”と考えられ、重要視されていませんでした。数十年前までは栄養価ばかり大切にされてきたので、食物繊維は不要だったのです。ところが飽食の時代を迎えた現代では、食物繊維に大事な役割が二つあることがわかりました。一つは、食物繊維にはカロリーがほとんどないため、カロリー過剰になりやすい現代でバランスをとる存在。もう一つは、体に有益な腸内細菌のエサになるという点。食物繊維を取れば短鎖脂肪酸が生まれ、ブラウティア菌も増えると私は考えます」

 この短鎖脂肪酸が肥満を防ぐ際に非常に重要な働きをすることが、京都大学大学院生命科学研究科の木村郁夫教授らの研究でわかってきた。

 腸内細菌は、私たちが食べたものの残骸をエサとし、それを“消化”する過程でいろいろな物質を生み出している。消化吸収されにくい食物繊維やオリゴ糖は腸まで届き、腸内細菌がそれを食べると「短鎖脂肪酸」が産生される。人の体には短鎖脂肪酸のセンサーが存在し、これが産生された短鎖脂肪酸を感知すると、肥満を防ぐ働きをするという。

「短鎖脂肪酸にはさまざまな作用がありますが、どれも“肥満防止”の役割がある」と後藤医師が補足する。

「交感神経に作用してエネルギー消費を高めたり、脂肪細胞に働いて脂肪の蓄積を抑えたり、ほかにも腸管の粘液の分泌を促し、腸の炎症を抑えて糖尿病を防ぐ。腸管ホルモンを分泌して脳に作用し、食欲を抑える働きもあります。短鎖脂肪酸をつくりだす腸内細菌は、おおむねヤセ菌といえるでしょう」

 整理すると、人が食物繊維を含む食べ物を取る→腸内細菌が短鎖脂肪酸をつくる→短鎖脂肪酸がセンサーを刺激する→交感神経が活性化されてエネルギー消費を高める、脂肪組織での脂肪の蓄積を抑制する→脂肪がたまりにくい、太らない、という流れになるわけだ。

レジスタントスターチ

 自ら短鎖脂肪酸を生み出せる腸内環境であれば、肥満を防止できる。そのためには有益菌のエサとなる食物繊維を摂取することだ。望月氏に、それらを多く含む食品の具体例を聞いた。

「ごぼうやりんごですね。ごぼうに含まれるイヌリン、りんごに含まれるペクチンが短鎖脂肪酸を十分につくります。また、プレーンヨーグルトに市販のオリゴ糖を混ぜてもいいですし、バナナや豆類、玉ねぎといったオリゴ糖が多く含まれた食品を取るのもいいでしょう。食物繊維とオリゴ糖の両方が多く含まれているバナナは特にお薦めです」

 通常の白米でも冷まして食べれば、消化しにくいでんぷん「レジスタントスターチ」が増える。これも食物繊維のように腸内環境を良くする働きがある。再び望月氏の話。

「レジスタントスターチは5度くらいの冷や飯で多く出現します。でんぷんは通常、すぐに胃や小腸で消化されて血糖値を上げてしまいますが、レジスタントスターチは消化されずに大腸まで届くので血糖値の上昇が緩やかになり、腹もちがいい。ダイエットにお薦めです」

 そしてレジスタントスターチに含まれる糖が有益菌によって分解されると短鎖脂肪酸がつくられ、それが肥満防止や腸内環境をより良い状態にしてくれる作用があるという。

 白米だけでなく、麺類やじゃがいもも冷やすことでその効果が望める。

 だが、食物繊維やその作用があるものが有益菌を増やすからといって、同じ種類の食品ばかり食べているのも長期的には肥満防止にならない。後藤医師によると、「肥満の人はやせている人より、“腸内細菌の多様性”がない」という。実際に肥満の人の腸内細菌叢は偏っているという報告がある。

「反対に、やせている人は菌の多様性がある。いろいろな食品を食べるから、それをエサとして、腸内にさまざまな菌が存在できるということです。臨床の実感としても、太った人は『私はこれしか食べません』と、食べる種類が少ない傾向ですね。やせている人のほうがなんでも食べる印象です。ですからダイエットをする時に“量を減らす”より、食べる量はそのままでも食材の種類を増やすようにし、それも食物繊維が含まれるものの比率を上げるといいでしょう」

 太っている人に2週間、食物繊維を中心にしたメニューを取らせると、腸内細菌叢が変わるという報告がある。

 肥満改善のためにはまずは2週間、野菜や果物などの食物繊維が豊富なもの、オリゴ糖、ヤセ菌入りヨーグルトを摂取して、腸内細菌叢の多様性を確保し、自ら短鎖脂肪酸がつくれる体になるのを目指そう。食事指導の定番である「バランスよく食べましょう」。それは健康だけでなく、肥満防止にも必要なことなのである。

笹井恵理子(ささいえりこ)
ジャーナリスト。1978年生まれ。「サンデー毎日」の記者を経て、フリーに。医療や衣食住の生活分野を中心に執筆活動を続ける。著書に『救急車が来なくなる日』『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』など。

特集「その努力では痩せられない 減量失敗続きのあなたに贈る 『ヤセ菌』『デブ菌』 コントロールで“おうちダイエット”」より

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