肥満から脱却できない本当の理由は? 「ヤセ菌」を活用してダイエット

ライフ 週刊新潮 2021年5月27日号掲載

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 涙ぐましい努力を続けても、なかなか痩せられないと嘆いている人も多いのではないか。ダイエット法は数多くあれど、どれも成功率は低い。その努力を無駄にしないため、是非とも耳を傾けてほしい話がある。効率的で健康的な、「腸内細菌」を利用する方法である。

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 コロナ禍で生まれた言葉の一つに「コロナ太り」がある。自粛生活が続いて運動不足となり、体重増加に悩む人も少なくないだろう。運動をしたり食事の節制に励むのもいいが、腸内環境に目を向けると、健康的かつ効率的にダイエットできるかもしれない。

 私たちの腸には、数百から千種類、数にして100兆~1千兆個にものぼる細菌が棲みついて腸をコントロールし、全身の健康に影響を与えている。人間の細胞は約37兆個という説があるが、それ以上の細菌が腸にはいるのだ。重さにすると約1~1・5キロもあるという。腸内の細菌を顕微鏡で見ると、細菌群は群生する植物の花畑(フローラ)に似ていることから、「腸内フローラ」(正式には腸内細菌叢)と呼ばれる。

 食生活や環境によって腸内フローラは日々変化する。これが「体型」にも影響を及ぼすという。

 米科学誌「Science」に2013年、「腸内細菌叢が肥満に影響する」という研究論文が発表された。

 米国ワシントン大学のゴードン博士らが、肥満とやせ型の組み合わせの一卵性双生児から便を採取した。便の大部分は水分で、水分以外の実の半分は、腸内細菌といわれる。その便を無菌のマウスの腸に移植すると、肥満の人から便を移植したマウスは、ヤセ型の人から移植されたマウスより、約20%多く脂肪が蓄積し、体重が増加したというのだ。

 国内では19年、弘前大学特任教授の中路重之氏らが、青森県弘前市岩木地区の20~76歳の男女1001人分の健診データを分析し、「ブラウティア属(菌)」という腸内細菌が多い人は腹部脂肪(=内臓脂肪)が少なく、BMI(肥満度を表す指数)の値も低くなることをつきとめている。中路氏は「一般の人の腹部脂肪と腸内細菌を測定した国内初のデータ」と胸を張る。

「今まで腹部脂肪というのはCTなどでしか測定できず、代わりに腹囲を測定していました。ですが腹囲は筋肉量や骨格によっても変わりますし、皮下脂肪も含まれるため、必ずしも脂肪量を正しく反映しているとはいえません。今回、パナソニックと花王の両社が開発したこの医療機器は、体に悪影響を及ぼす内臓脂肪の測定に特化しています。腹部に巻いて人体に影響のない微弱な電気を流すことによって内臓脂肪の面積を測れるのです。かなり信頼性の高いデータと言えるでしょう」

 そしてその内臓脂肪の面積が小さいグループは、便の中のブラウティア菌の量が多かったのだ。

ヤセ菌ヨーグルト

 大隅鹿屋病院内視鏡センター長の後藤利夫医師によると、「内臓脂肪を減らす腸内細菌を『ヤセ菌』、肥満を促進する腸内細菌を『デブ菌』と呼ぶ」ことが多いという。

「腸内細菌の種類は『門→属→種(菌)→株』と分類されていくのですが、腸内細菌の約9割がファーミキューテス門とバクテロイデス門に属します。やせた人ほどバクテロイデス門に属する腸内細菌が多い。一方で肥満の人はファーミキューテス門のうち、特にクリストリジウム属やルミノコッカス属に属する腸内細菌が多い傾向にあります」

 例えばファーミキューテス門のルミノコッカス属が増えると、糖質の吸収と脂肪の蓄積が促進されるというが、日本人の腸内細菌叢はまさにこのタイプが主流なのである。つまり、デブ菌優勢であるため、やせようと頑張っても、腸内細菌が足を引っ張り、肥満から脱却しにくいのだ。

 というと、ファーミキューテス門に属する腸内細菌がすべてデブ菌のように思えるが、実はこの門の中にもヤセ菌がある。中路教授が検証したブラウティア菌も、ファーミキューテス門に属するのだ。そのため近年は「門」よりも細かい「属」や「種」「株」などで、ヤセ菌とデブ菌を分けたほうがいいとされる。ブラウティア菌に関しては、肥満の人だけでなく、糖尿病や肝硬変の患者の腸内でもこの菌が少なくなると報告されていることから、人体に有益な腸内細菌といえるだろう。

 それではこのような有益菌を体内に増やし、肥満から脱却するにはどうすればよいか。ヤセ型を生み出すとされる腸内細菌が入ったヨーグルトが数種類市販されているので、まずはそれを摂取する方法が手軽である。

 後藤医師は「ガセリ菌SP株」を挙げる。内臓脂肪の蓄積を抑える働きがあるという。ちなみにこれもファーミキューテス門だが、日本人に多いルミノコッカス属ではなく、ラクトバチルス属である。

「ファーミキューテス門の中でもルミノコッカス属はデブ菌、ラクトバチルス属はヤセ菌ということでしょう。内臓脂肪が増える要因の一つは、高脂肪食によって細胞壁に有害物質であるLPS(リポ多糖)を含む腸内細菌が増えること。LPSが腸壁を破壊して血中に入ると、脂肪組織に作用して肥満が進むと考えられているのです。ガセリ菌SP株は腸壁のバリアを強化して、LPSを通さないようにするといわれています」

 ガセリ菌SP株は、雪印メグミルクの「ナチュレ恵」に含まれている。そのほか植物乳酸菌LP28株やLGG乳酸菌にも同様の作用が期待できる。

 さらに最近ヤセ菌として注目されるのは「ビフィズス菌Bー3」。管理栄養士の望月理恵子氏が説明する。

「例えばフードファイターの中には、太らずに普通の人の何倍もの量を食べられる人がいます。普通の成人の腸内細菌は10~20%程度がビフィズス菌ですが、フードファイターはビフィズス菌が50%以上ともいわれます。ビフィズス菌の中でも、森永乳業が発見したビフィズス菌Bー3は、体内で脂肪の蓄積をブロックする短鎖脂肪酸をつくりだすことがわかっています。『森永ビースリー』という名前でヨーグルトやサプリメントが市販されています」