「産廃業者」が取り組む真の「循環型社会」作り――石坂典子(石坂産業代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

  • ブックマーク

Advertisement

動脈産業と静脈産業

石坂 それから最近の大きな問題はリチウム電池です。もう私たちの生活に不可欠で、非常に利便性が高いですよね。でも小さいので、いろいろなものに交じって廃棄されてきます。それがあちこちの工場で火事を起こすのです。

佐藤 リチウム電池は危ないですから、飛行機でも預からないですよ。

石坂 結構な頻度で発火しますね。そうすると皆さん、「産廃屋が燃えている」「やっぱり近所にない方がいい」と言い出すようになる。だから私たちの工場では、夜間も警備態勢を敷き、40台以上のモニターを設置して、24時間監視の防災対策をしています。このコストは廃棄物の処理単価に上乗せすべきものです。でもそうすると、何で料金を上げるのかと言われてしまいます。

佐藤 家を作る人もリチウム電池を開発する人も、そうした事情は思いも寄らないことでしょうね。

石坂 メーカーの方々もここに来られますが、だいたいは原料調達から製造プロセスまでがSDGs(持続可能な開発目標)だと思っています。

佐藤 廃棄するところまで含めて考えていない。

石坂 販売した後のことは考えていないと思いますね。フィンランドだと、ボトリングメーカーは販売後のボトル回収まで義務付けられています。でも日本は消費者の手に渡ったら、消費者責任で処理してくれということになる。

佐藤 再利用が容易なボトルでもそうですから、ましてや建材などは再利用を考えていないのでしょうね。

石坂 いま私たちの工場では廃棄物の減量化・リサイクル化率が98%まで到達しています。

佐藤 すごいですね。いつくらいからその水準なのですか。

石坂 ここ5年くらいは達成できています。ただ問題は、リサイクル品が売れないことです。廃棄物から建材となる砂を作っても、「ゴミが入っているだろう」とか「結局、ゴミでしょう」と言う人たちがいる。つまり純粋の砂とは勝負できない。

佐藤 品質が劣るのですか。

石坂 地球から最初に取ったバージン素材はものすごく品質がいい。例えばオーストラリアの砂に、私たちの作る再生資源の砂は及びません。どうしてもアスファルトが混じったり、コンクリートが混入しますから。

佐藤 どこまで品質を求めるか、になりますね。

石坂 品質を上げていくにはコストがかかります。一方でその建材は当社の売り上げの1割にも満たないんですよ。だからリサイクルで再生資源を作る会社が出てこない。

佐藤 経済的合理性を考えれば、そうなりますね。

石坂 品質を向上させるためのお金を出す人がどこにもいない。だから国が金銭面や技術面で支援することが必要だし、さらにこういうものを再利用する社会を作るのだという強い意志を示してほしいですね。国が再生資源を使うよう勧めても、県や市町村に下りてくると使わないことがあるのが現状です。

佐藤 技術なら、素材を作った人と研究していくのが一番早い。これからも新素材は次々と生まれてくるでしょうから、その開発段階から関わる必要があります。

石坂 そうですね。いまは製品を開発する側のスピードに、処理する側が追いついていない。地球から採取した資源を加工して有用な財を生産するのを動脈産業と言うのに対し、私たちのように廃棄物から再生資源を作り出していく仕事を静脈産業と言いますが、このバランスが非常に悪い。

成長を阻む規制

石坂 それに加えて、製造業においては自由な生産活動が行えるのに、廃棄物処理にはものすごく規制があります。

佐藤 確かに産廃業は許可制のビジネスですね。

石坂 何種類かありますが、それぞれ5年の許可更新制です。要は、ヤクザ者が関与していないかとか、ちゃんと利益は出ているかなどの条件をクリアしないといけない。確かに全国の処理業者2万社近くの中で、ヤクザや右翼が関与しているケースもあるようですが、どこまで法的な規制をかければいいかはもう少し考えてほしい。

佐藤 扱う廃棄物の種類別にも許可が必要ですよね。

石坂 おおよそ20の品目に分かれ、施設についても許可が必要です。私たちはコンクリートくず及び陶磁器くず、がれき類、廃プラスチック類、紙くず、木くずなどの許可をもらっています。繊維くずも扱えますが、最近増えているマスクはだめです。

佐藤 医療廃棄物の範疇に入るわけですね。

石坂 その通りです。私たちはさらに太陽光パネルの再生をしたいと考えていますが、県に相談したら「埼玉県では過去に許可した前例がない」「簡単ではない」と言われました。

佐藤 そこは力のある政治家が必要かもしれない。

石坂 埼玉県は他県より審査に長く時間がかかる傾向があります。以前、クボタの破砕機を導入しようと思ったら、許可が下りるまでに8年もかかった。

佐藤 それはひどいですね。

石坂 それだけ時間がかかってしまったら、当時は最先端でも遅れた技術になってしまいますし、私たちの力も弱まります。その技術で成長できるはずが、できずに過ごすわけですから。

佐藤 行政が会社の成長も技術の進化も阻害している。

石坂 廃棄物処理の単価は、循環経済が叫ばれるこの社会でも、買い叩かれます。私たちにとって、コスト競争をしながら、たくさんの大学生を入れ、人材育成をして、技術を高めていくのは現実的ではありません。ですから、私たちの試みを理解してくださるところとパートナーシップを組んでいくことが重要になってきます。

佐藤 すでに提携している会社もあるのですか。

石坂 NECさんやインテルさんと、遠隔操作で重機を動かしたり、処理料金を決めたりする仕組みを共同で作っています。また東急建設さんとは、廃棄物選別ロボットの開発を行っています。

佐藤 最先端の廃棄物処理ができるようになる。

石坂 やはり危険度の高いものは人の手で直接触らないようにしていく仕組みが必要だと思います。ただそこにも莫大な費用がかかる。ですから、そのコストを廃棄物処理単価に上乗せしていいという社会にしなくてはならない。

佐藤 そこを石坂産業が切り拓いていくと、世の中全体が変わる気がします。

石坂 いま人間は地球の資源を好きなだけ使っています。年間900億トンくらいの枯渇性資源が世界中で使われている。でも循環型社会を作るなら、その枯渇性の資源を使う社会を考え直すところから始めないといけません。これからは、地下資源の利用から、地表にある廃棄物などの資源の回収に比重を移していかなければならないと思います。

佐藤 そこも国を挙げての取り組みが必要になります。

石坂 私たちは「捨てない選択」の価値を普及させる活動にも取り組んでいます。循環型社会は、国全体、世界全体で取り組むべき大きな課題です。私たちの仕事は社会の川下にありましたが、それを川上につなげていかなければならない。そのためには、私たちの仕事をどんどん知ってもらい、私たちの仕事に価値があることを見いだしてもらいたい。ヨーロッパでは、子供たちが将来やりたい仕事に廃棄物処理の再生会社が入っています。日本でもそうなれるようにがんばっていきたいと思います。

石坂典子(いしざかのりこ) 石坂産業代表取締役社長
1972年東京都生まれ。高校卒業後、米国の大学に語学留学するも早々に中退し、各地を旅して帰国。イベントコンパニオンをしながらネイルサロン開業を目指すが、92年父親が創業者である石坂産業に入社。97年営業本部長、2000年専務を経て02年社長就任、13年より代表取締役社長。1男1女の母。

週刊新潮 2021年5月20日号掲載

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。