「産廃業者」が取り組む真の「循環型社会」作り――石坂典子(石坂産業代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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 小学生から企業経営者、各国大使まで、年間4万人が訪れる埼玉県の石坂産業。かつて所沢のダイオキシン騒動に巻き込まれて槍玉に挙がったこの産廃業者は、いまゴミの減量・リサイクル化率98%を誇り、循環型社会の先頭を走る。30代でこの大改革を成し遂げた2代目女性社長の熱き思い。

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佐藤 こちらにタクシーで向かう途中、2キロくらい手前から同じ方向へ走るトラックが増えてきました。一緒に走って行くと、石坂産業のトラックターミナルに着きました。

石坂 この埼玉県三芳町のくぬぎ山地区には、資材置き場や私たちのような産業廃棄物処理業者がいくつかあり、「産廃銀座」と呼ばれています。私たちのところには、1日300台くらいのトラックが、主に住宅解体瓦礫を運んできます。

佐藤 大小さまざまなトラックを見ました。その一方で、あたりは雑木林に覆われていて、非常に懐かしい気持ちにもなりました。私が幼い頃に住んでいた昔の大宮市(現・さいたま市)がこんな感じでした。

石坂 会社のまわりは、地権者から山林を借り受けて「三富今昔(さんとめこんじゃく)村」という里山になっています。東京ドーム4・5個分の広さで、8割が森林、2割が廃棄物処理工場です。

佐藤 小学生から経営者、各国大使に至るまで、年間4万人の見学者が訪れると聞きました。

石坂 一昨日も700人を超す方々に遊びに来ていただきました。ここで廃棄物を処理して再生資源を作り、それができないものはサーマルリサイクル(焼却で発生する熱エネルギーを回収・利用)に出したり、最終処分場へ持っていきます。同時に周囲を里山として保全し、生態系を守りながら、自然体験活動の場にしたり、オーガニック野菜を作ったりしています。

佐藤 産廃業者と里山保全は、すぐには結びつきません。その非常にユニークな試みが多くの人を呼び寄せているのですね。

石坂 廃棄物処理という仕事への見方を変えてもらいたいのです。最初は工場見学から始めました。それまで屋根のない場所で作業していましたが、2008年に屋根のついた全天候型の独立総合プラントを完成させ、そこで廃棄物処理をするようにしました。その時、私たちの仕事を見てもらうようにしたのです。

佐藤 「見られる」廃棄物処理工場を作ったわけですね。

石坂 プラントには40億円かかりましたが、さらに2億円をかけて見学ルートを整備しました。創業した父の時代はいわばクローズ型で、何をやっているかを伝えてこなかった。黙って細々と一所懸命に廃棄物の処理をしていました。でもそれでは、何かきっかけがあると大きくバッシングされ、「産廃業者は出ていけ」と言われてしまう。

佐藤 1999年のダイオキシン騒動ですね。

石坂 三芳町に隣接する所沢市で生産された野菜から有害物質のダイオキシンが検出され、その原因は廃棄物処理の焼却炉にある、というテレビ報道がありました。この時、私たちは地域住民のみならず、近隣住民、環境団体などから大バッシングを受けました。

佐藤 よく覚えています。私は当時、その騒動を注視していたんです。ちょうど鈴木宗男さんが内閣官房副長官の時で、彼から呼ばれて官邸に行くと、あれは野菜でなくお茶の葉っぱで実質的に問題はない、ただある在日米軍が基地のそばにある産廃施設を問題視している、と言うんですね。何でも米軍兵士の娘が、ダイオキシンを出しているところで父に仕事させたくないと、ヒラリー・クリントン夫人に訴えたそうです。だから当時、官邸は産廃施設にとてもピリピリしていました。

石坂 結果的に誤報でしたが、当時は会社の前に闘争小屋が作られ、カメラも設置されて、私たちは24時間監視されるようになりました。それだけでなく2001年には、事実上の廃業を求めて、県に対し産廃業者の許可取り消し訴訟まで起こされてしまいました。

佐藤 石坂さんが社長になられたのは、そのすぐ後のことですね。

石坂 父に直談判しました。私が幼かった頃、父は廃材をトラックに載せて東京湾近くの埋め立て地に運ぶのが仕事でした。それを父は「もったいない」と感じ、「いつかゴミを捨てる時代を終わりにして、リサイクルする時代にしなくてはならない」と思ったそうです。その父の思いを大切にしたい、そのために私が会社を変えなくては、と思ったのです。

佐藤 それで解体資材を減量化させながらリサイクルしていく会社に大きく転換されたのですね。

石坂 バッシングは10年に及びましたが、私にとっては企業のあり方を学んだ10年間でした。産廃業界は男性社会で、しかも荒っぽい職人肌の人が多い。トラック運転手も同様です。そこに整理・整頓・清掃の「3S」と、躾(しつけ)・清潔を加えた「5S」を導入して徹底したり、ヌードグラビアの貼られた休憩室を減らしたりしたら、従業員の4割にあたる30人以上が辞めていきました。

佐藤 そうなるでしょうね。でもそれは仕方ないことでしょう。

石坂 会社を変えるチャンスだと思いました。そして焼却をやめ、全天候型の工場を作り、その周囲には、ホタルビオトープを導入して、近隣の道路清掃や地域のゴミ拾いをしながら里山を作っていきました。

質の悪いゴミが増えた

佐藤 もともとはネイルサロン開業を目指していたそうですね。大きく人生が変わりましたね。

石坂 やはり産廃業は「ゴミ屋」とか「産廃屋」と言われて、低く見られているんですよ。私は小さい頃に「捨て場屋の娘」と言われたこともあります。だから父の仕事に興味が持てませんでした。入社したのも、ネイルサロン開業の資金調達のため、お手伝いに入ったという感じでした。

佐藤 その前はイベントコンパニオンでした。

石坂 それも開業資金を貯めるためです。ただ父は温泉地でお酒を注ぐコンパニオンと思ったみたいで、家に呼び戻されました(笑)。

佐藤 石坂産業に入ったのは20歳頃ですね。

石坂 その時、現場で働いている人たちを初めて見て、すごいな、すごく大切な仕事だなと思いました。ゴミを一つ一つ分けていくなんて、誰もやりたがらない仕事ですよ。それをコツコツ一所懸命にやっている。その姿を世の中の人は知らないわけです。ものすごい勢いでゴミを出しているのに、見えない仕事になっている。だから社会的地位が確立しにくい仕事なのです。

佐藤 その思いが工場見学に繋がる。

石坂 いま社会は大きく変わってきて、持続可能な社会とか循環型社会と言われるようになってきました。でも産廃業者は、やっぱり地元から「ないほうがいい」と言われるのです。同じ経済システムの中にいて、誰しも道路を走ったり、橋を渡ったりしている。それを直したり新しくすれば、その廃棄物は私たちのところに来ます。そのことを知ってもらわなければ何も変わらない。だから工場見学もしていただくし、里山にも来ていただく。

佐藤 ただ持続可能な社会が叫ばれていても、ゴミの量は減っているようには見えません。

石坂 ほぼ変わっていませんね。産業廃棄物だけで年間4億トン近くあります。もう分けきれないくらいに出ています。それらは出した自分たちで処理するのが当たり前ですが、この間までは中国に持っていっていましたよね。でも3年前に受け入れ拒否となって、今度はインドネシアや台湾に持ち込んでいる。

佐藤 「オランダ化」ですね。オランダはCO2の排出量が非常に少ない。でもそれは製造などを第三世界に押し付けているためで、単体の国としては少なくても、トータルでは違う。オランダの代わりに中南米の負担が増えているという問題が、いま議論され始めています。

石坂 それはコンビニのゴミ箱に全然関係のないゴミを入れることにも繋がっています。そこまでモラルのない国になっている。いまだに雑木林へのポイ捨てもあります。

佐藤 そこはなかなか変わりませんね。リサイクルも同じで、推進しているのになかなか定着しない。

石坂 リサイクルにはさまざまな問題があります。もっとやってほしいと言われますが、リサイクルにはものすごくコストがかかります。実はこの30年間、産廃業者から見ると、明らかにゴミの質が悪くなっているんですよ。

佐藤 どういうことですか。

石坂 昔はもっとバージン素材が多かった。例えば、柱ならただの木でした。それなら木材として再利用することもできるし、紙にすることもできる。でもいまは、素材にいろんなものが混じっているので再生できず、ほとんどが燃やされていきます。

佐藤 なるほど、いろんな付加価値を付けた素材だから再生しにくい。フローリング材もそうですね。

石坂 木材に特殊な紙が貼ってあったり、プラスチックが混ぜてあったりしますね。昔は釘も使わず木材だけで家を建てた時代もありました。それが長期の工事はご近所迷惑だからということで、ハウスメーカーは、パーツを工場で作り現地では組み立てていくだけのパネル工法を開発しました。でもその結果、素材にいろいろなものがくっついてきて、再生できない建材になってしまった。結局、破断、破砕して埋立地に持っていくか、燃やすしかなくなる。

佐藤 早く家を建てることのしわ寄せが、廃棄物に来ている。

石坂 特に火災が起きた時に燃えにくかったり、地震の時に倒れなかったりする安全性が担保された家は、素材から工夫してありますから、再生できない。

佐藤 安全な家ほどリサイクルできないということになる。

石坂 人を中心にして、安全や利便性を追求していくと、再生ができないものが多くなるのです。

佐藤 いいものを作っているつもりが、地球環境に負荷の高いものになってしまうのは皮肉なことですね。

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