なんとか「不倫の恋」を諦めたのに… あの時、僕に言った妻の「許す」はウソだったのか?

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 浮気が妻にバレ、さんざん揉めたあげく、家庭に戻る夫たちは少なからずいる。その後の妻の対応によって、夫たちの「家庭での居心地」が決まるわけだが、多くの夫たちは針のムシロに座るしかないのが現状だ。妻の嫌悪感を払拭したいが、どうしたらいいかわからない。いっそまた浮気してしまいたいと言う男性もいる。

 原田繁夫さん(45歳・仮名=以下同)が結婚したのは29歳のとき。相手は3歳年下の同僚だった。

「2年くらいつきあって、なんとなく周りにも知られる状態となって。僕自身、身を固めて一人前という、今思えば古い考えがあったし、別れたりしたら社内的にもまずいという状況だったので結婚したというのが本音です。彼女でなければダメだと情熱的に突っ走ったわけではありませんが、彼女とならいい結婚生活が送れるとは思っていました」

 繁夫さんの結婚の動機は、それほど積極的ではない。だが多くの男性は似たようなものなのではないだろうか。「そろそろ結婚したほうがいいと思っている時に、つきあっている人がその人だったから」という理由はよく耳にする。同僚だと、よほどのことがない限り別れられないのもごく普通の意見だろう。

「妻の亜希は結婚と同時に転職しました。同じ会社のままで共働きもできたんですが、彼女はそれを嫌がって。女性が多くて働きやすい会社に行きたいと前から思ってもいたようです」

 繁夫さんが31歳のとき長男、34歳のときに次男が生まれた。娘もほしかったが、さすがに3人目は経済的に断念せざるを得なかった。

「妻は次男が生まれたあとしばらくは時短で仕事をしていました。僕はもっと協力したかったけど、実際には出張も残業も多かったので、なかなか家事育児をしっかりとはできませんでしたね。それは同じ会社で働いていたから、妻もよくわかってくれていたと思います」

 次男が小学校に入ったとき、繁夫さんは心からホッとしたという――。生まれたときから心臓に病気があり、3度も大きな手術をしていたからだ。小学校に入るくらいまでは気を許せない状態だと医師に言われ、常に心配が絶えなかった。

「だから入学したときは、ここまで無事に育ったと感無量で……。入学式で亜希ともども泣いてしまいました。それからは見違えるように元気になっていって、学校でもいたずらっ子で先生に呼び出される始末。でも人をいじめたりするわけではないので、元気ならそれでいいと見守っています」

 そんなふうにホッとしたときこそ、魔が忍び寄るものかもしれない。

あっけなくバレた不倫の恋

 3年前、繁夫さんは仕事で知り合った蓉子さんと恋に落ちた。蓉子さんは繁夫さんより4歳年上で夫もいた。だが、夫とは完全に冷め切っており、子どももいないために気持ちの持って行き場がないと泣いた。

「深入りするのをやめておこうとか、そういう感覚はまったくなかった。一目惚れして、あっという間に深間に入った。そんな感じです。自分の力では抗いきれない何かに引っ張られていった。あれが“恋”というものなんでしょうね」

 他人事のように言いながら、彼の目はかすかに潤んでいる。恋の余韻はまだ続いているのだろうか。

 ふたりの恋はあっけなく彼女の夫にバレた。夫から繁夫さんの妻に連絡がいき、恋が燃えさかっているときに4人で会うことになった。

「妻は泣いていました。『こんなにみっともないことをする人だとは思わなかった』と。そう言われても、なんだかリアリティがないんですよ、僕には。蓉子はご主人に怒られているんだろうか、殴られていないかなと心配している自分がいた。目の前の妻に寄り添えない。恋ってエゴなんだなあとぼんやり思ったりしていました」

 ホテルの部屋で、週末、4人は会った。繁夫さんがちらりと蓉子さんを見ると目が合った。彼女の目は恋心を訴えていると、繁夫さんは感じたという。

「蓉子のご主人とうちの妻が『もちろん別れさせましょう』と言っている脇で、僕と蓉子は目だけで愛を分かち合っていた。そんな状況です。そのうち蓉子が『私は繁夫さんとは別れませんから』と叫んで部屋を飛び出していった。僕はあとを追いました。そのあとをさらに蓉子のご主人が追いかけてきて、僕は廊下で突き飛ばされました。倒れているところに亜希がやってきて……。その日はそれぞれが配偶者に引き取られていったという感じですね」

 それでも次の週、繁夫さんは蓉子さんと会った。別れられない、別れたくない。ふたりは同じ言葉をずっと一緒に呟き続けた。

「そのころ亜希が言ったんです。『離婚するから出て行って。その代わり、この家のローンはあなたが払い続けて。養育費はお願いね。金輪際、子どもたちには会わせないからそのつもりで』って。ふと見ると、リビングの入り口にふたりの子どもたちが突っ立って、怯えたようにこちらを見ていた。そのときです、何か憑きものが落ちたようになったのは」

 子どもたちを部屋へ行かせ、妻の前に膝をついて謝った。彼女とは別れる。そう言った瞬間、自分の膝にぼたぼたと何かがこぼれ落ち、自身が泣いていることに気づいた。本当は蓉子さんと別れたくないのだ。

「魂レベルではそう思っている。だけど僕の中に巣くっている社会的な心は、『別れる』と言った。そんな感じですね。たとえ彼女と一緒になっても、決して幸せにはなれない。そうも感じていたのかもしれません」

 今すぐここで蓉子さんに「もう会わない」と連絡してほしいと妻に言われたが、繁夫さんは次の4者会談ではっきりさせようとつぶやいた。

「妻は『わかった。あなたが本気で家庭に戻るつもりなら、私は許す。すべて水に流す』と言ってくれました」

 その後、4人は再度会い、繁夫さんと蓉子さんは別れることに同意。一筆書いてそれぞれの夫婦で覚書をかわした。

「その前に最後だからと蓉子に一度会っています。子どもとは離れられない、ほとぼりが冷めるまで会うのをやめよう。でもいつかまたきっと会えると蓉子とは約束しました。妻には悪いけど、そうするしか方法がなかったし、そのまま気持ちが冷めればもう会わないかもしれない。とにかく“今は”会わずにいるしかないと思ったんです。現実には目覚めたけど、蓉子への思いがなくなったわけではなかった」

 夢に浮かされていたような恋が、現実に根ざした恋へと変わっただけだ。いずれにしても蓉子さんへの気持ちがなくなりはしない。

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