社会的課題を解決する二つの“まちづくり”計画――芳井敬一(大和ハウス工業代表取締役社長)【佐藤優の頂上対決】

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事業を組み合わせる

佐藤 大和ハウス工業は戸建住宅のイメージが強いのですが、いまの3本柱は賃貸住宅、商業施設、物流施設だそうですね。

芳井 中でも大きく伸びているのが、データセンターなども含めた物流施設です。これまで物流はずっとコストカットの対象でしたが、コロナ禍でずいぶんと変わってきました。

佐藤 マスクや消毒液が手に入らなくなったり、ネットで買って配送してもらうことが多くなったりして、物流を意識する機会が増えました。

芳井 コロナ禍では、Eコマース(電子商取引)で即日配達の需要が高まりました。するといままでのように倉庫を郊外に置くのではなくて、都市部に作る必要が出てきます。コロナで土地が流動化する動きもありますから、私どもはここに新たな価値を提供できる機会があると思っています。

佐藤 ユニクロやアマゾンといった会社の物流施設も手掛けられていますね。これまでにどのくらいの物流施設を手掛けてこられたのですか。

芳井 自社開発の物件だけでも250カ所以上あります。国内には物流施設開発に携わる会社が複数ありますが、昨年、面積・棟数ともに最大となりました。

佐藤 いつ頃からこの事業が拡大していったのですか。

芳井 2000年前後です。当時は日産自動車の「日産リバイバルプラン」が発表されるなど、企業が持つ大規模な土地が売却された時期でした。私どもはリーシング(商業用不動産に借り手がつくのをサポートする)にも力を入れており、テナント企業を見つけ、同時に不動産の証券化という手法も取り入れて、日本各地で展開していきました。北海道から沖縄まで全国展開しているのは、弊社くらいだと思います。

佐藤 物流施設を拠点としたまちも考えているそうですね。

芳井 今後は物流施設にマンションや商業施設を組み合わせて一体開発していく計画もあります。いま物流施設は、工場を作るより、はるかに雇用を生み出しますから。

佐藤 なるほど、機械化が進んでいる工場よりも人手は必要ですね。

芳井 だから企業や自治体にも、物流はまちを変える機能を持っていることをお伝えしています。

佐藤 つまりはまちづくりになるのですね。

芳井 物流施設は、災害時には避難所にもなります。太陽光パネルをつけて発電・蓄電もしていますから、万が一何か起きた時には避難できるし、ここを基地にして復興のお手伝いもできます。

佐藤 複合的な機能を持った場所になる。

芳井 物流施設ではありませんが、東京の八王子市にある「高尾サクラシティ」は、約120店舗が入る商業施設を中心に83区画の戸建住宅、416戸のマンションを組み合わせたまちです。また千葉県船橋市でも商業施設を核に、戸建住宅、分譲・賃貸マンションを一体化したまちづくりを手掛けました。ここは日本で初めて再生可能エネルギーで電力を100%賄うまちにします。

佐藤 さまざまなアイデアを詰め込んでまちづくりをしているのですね。

芳井 「コ “Re” カラ・シティ・プロジェクト」と呼んでいるのですが、地球環境や気候変動などスケールの大きな社会的課題の解決に向け、新しいまちづくりに取り組んでいるところです。

佐藤 菅総理が「50年までに温室効果ガス排出量ゼロを達成する」と宣言しましたが、まさに時代を先取りした事業になりますね。

芳井 創業者の石橋は「21世紀には風と太陽と水が重要になる」という言葉を遺しました。私どもは、09年から環境エネルギー事業にも乗り出し、風力、太陽光、水力発電事業を手掛け、蓄電池の販売なども行っています。

佐藤 そうした大和ハウスグループが持つ事業を組み合わせることで、さまざまな可能性が出てきますね。

郊外のまちを「再耕」する

芳井 もう一つ、私が力を入れているのが「リブネスタウンプロジェクト」です。3本柱に続く4本目には、やっぱり住宅を考えたい。

佐藤 住宅にもいろいろあります。

芳井 弊社では60年代からネオポリスという大型住宅団地を作ってきました。都会ではなかなか家が買えない。だから郊外の土地を造成して、少しでも安くマイホームの夢を叶えていただこうと、全国で60カ所以上作りました。

佐藤 それから半世紀あまり経っています。

芳井 はい。マイホームの夢は叶えましたが、時間が経ち、いつの間にか高齢化や過疎のまちになっている。私どもは「再耕」と言っていますが、その夢の続きをどうするか、住民と一緒に考えていきます。

佐藤 ちょうどリモートワークが普及し、必ずしも通勤しなくてもいいことがわかってきた。いま郊外は見直されています。

芳井 大きな問題は空き家ですが、私どもが作った建物は、やはり私どもが一番よく知っています。つまりどうすればもう一度輝けるかがわかる。ですから再び手を入れさせていただき、それを次世代に渡していただいてもいいですし、売っていただいてもいい。そうやっていつまでも住みつづけられる場所にしていきます。

佐藤 私は80年代にイギリスにいたのですが、アパートなどで「Fairly new(かなり新しい)」とあると、20年代の建物でした。当時は、20世紀初頭の建物はだいたい新しい部類に入っていました。

芳井 価値観なんですよね。日本は文化的にスクラップ・アンド・ビルドの傾向が強い。何度も手を入れて長く住むという、北欧のような文化が根付いてくれればいいと思います。

佐藤 具体的にはどんな場所があるのですか。

芳井 いま東西2カ所でモデルプロジェクトを始めています。一つは横浜市の「上郷(かみごう)ネオポリス」です。900戸2千人ほどの規模で、開発当時は学校が近いことが売りでしたが、少子化で学校はなくなり、商店街も相次いで閉店しました。そこへローソンさんと組んで、住民が運営するコンビニエンスストア併設のコミュニティ拠点「野七里(のしちり)テラス」を開設しました。コンビニ店員や施設運営は地域住民の方々に担っていただいています。

佐藤 何年くらいのプロジェクトなのですか。

芳井 上郷は7年やってようやくレールに乗ってきた感じですね。住民の方々とやりとりして、わかってきたことがいろいろあります。その一つは、みなさんやっぱり自分でモノを買いたいということなんですよ。

佐藤 コンビニが効果的だった。

芳井 野七里テラスのコンビニだけでなく、ローソンさんには移動販売車で地域を回ってもらっています。それが好評で、いまでは野菜まで積んで巡回しているんです。宅食業者から届く、発泡スチロールに入った食材を家で調理するのではなく、自分で選んで買って作りたいんですよ。

佐藤 まちにはだいたい何歳くらいの方が多いのですか。

芳井 60歳以上ですね。実は最初に相談させていただいた方たちの中にはもうお亡くなりになった方もいらっしゃいます。だからそんなに時間があるわけではない。

佐藤 もう1カ所はどこですか。

芳井 兵庫県三木市の「緑が丘ネオポリス」です。こちらは仕事作りからまちを再耕しています。高齢者と障害者にいかに働いてもらえるかを考え、蘭の栽培をしてもらうことにしました。「COCOLAN」という鉢植えのミニ胡蝶蘭を作ってもらっています。

佐藤 蘭は育てるのが難しいでしょう。

芳井 独自技術を用い、また近隣の大学の協力を得ながら栽培しています。蘭は弊社で全部買い取り、住宅などのオーナーさまにプレゼントしています。また去年の株主総会で並べて、ぜひお待ち帰りくださいとお伝えしたら、かなり人気がありましたね。

佐藤 それぞれの地域にそれぞれの処方箋があるのですね。

芳井 そうです。まちが抱える課題、住民の方々の気質、行政の考え方は、地域によって違います。ただ、人が循環し、コミュニティが活性化して、まちが力を取り戻せば、住み続けられるまちになります。これがどこまで事業として成立するものなのかわかりませんが、まちを作ってきた私たちがやるべきだと思いますし、これをやり続けることが、少子高齢化や過疎といった現在の社会的課題の解決に繋がると考えています。

佐藤 まさにSDGs(持続可能な開発目標)の項目にある「住み続けられるまちづくり」ですね。

芳井 この「リブネスタウン」と「コ“Re”カラ・シティ」を中心に、さまざまな社会的課題に取り組んでいきたいと考えています。

芳井敬一(よしいけいいち) 大和ハウス工業代表取締役社長
1958年大阪市生まれ。中央大学文学部卒。高校、大学とラグビーに打ち込み、卒業後も神鋼海運に入社して神戸製鋼ラグビー部に所属した。90年大和ハウス工業入社。神戸支店建築営業所長、姫路支店長、金沢支店長などを経て2011年取締役。16年専務、17年社長となり、19年より社長兼CEO。

週刊新潮 2021年4月29日号掲載

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