2人の女性を行き来してきた“不倫男”に突然の「がん」宣告、彼が頼った相手は?

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良充さんの「がん」が発覚…

 その日から4年ほど、良充さんは里佳さんと香奈子さんの間を行ったり来たりしていた。香奈子さんには「結婚していない」と言ってしまった手前、事実婚とは言えなくなり、「独身で親と住んでいる」ことになっている。

 里佳さんにも、もちろん香奈子さんの存在は知られていない。もともと起業してから不規則な時間で仕事をしていたし、里佳さんの休みに合わせて一緒にいる時間はとっている。疑われる要素がないのだ。

 ふたりとも彼を束縛しない。そしてふたりとも不遇な子ども時代を送ってきた。それは良充さんも同じだ。心の底でどこか通じ合うものがある。

「どちらも僕の本当の家庭だ。そう思っていました」

 ところが1年ほど前、彼が健康診断にひっかかった。精密検査の結果は大腸がん。そのとき、彼は里佳さんにも香奈子さんにも、その事実を伝えることができなかった。

「なぜ話せないのかわからないけど、ふたりには言えないと思っちゃったんですよ。彼女たちに心配させたくないのももちろんあるけど、それ以上に、自分の弱みを見せたくないような、同情されるのが怖いような……」

 子どものころ、父親がいないことで周りの大人たちから「かわいそう」と言われたことがある。彼は何よりその「かわいそう」が嫌いだった。そう言う大人に憎しみさえ抱いたという。それがよみがえってきて、彼はふたりに言えなかったのかもしれない。

「いろいろ検査した結果、手術と化学療法が必要だということになりました。どうしようか。さんざん考えたあげく、叔母が亡くなったあと、ひとりで暮らしている母に連絡をしたんです。年老いた母になら心配させてもいいと思ったのか、母なら心配はしないと思ったのか。案の定、母は淡々としていて、『退院したらうちで療養していいよ。そのほうが心強いでしょ』と」

 70代の母は、息子に関心があるのかないのか、病気の進度さえ聞かなかったという。その距離感が、彼にはむしろありがたかった。

「仕事上のパートナーには本当のことを言いました。彼は僕の女性関係については知らなかったので、この際だからと全部白状しました。彼は『あとでもめ事になるぞ。オレは尻ぬぐいするのはイヤだから、生きて帰ってこいよ』って。ありがたかった。そして里佳と香奈子には、悩んだあげく、しばらく海外で仕事ということにしたんです。コロナ禍で外国へ行けなくなる直前のことでした」

 手術でかなり痩せた良充さんだが、3ヶ月もたたないうちに化学療法を続けながら仕事に復帰した。だが女性たちには、いまだ顔を見せていない。

「申し訳ない気持ちでいっぱいです。もしかしたら、ふたりとも僕が海外にいるなんて思ってないのかもしれない。いつになったら帰れるのかとふたりともメッセージしてくるんですが、海外にいると信じたふりをしてくれているのかもしれませんしね。ふたりとも優しいから。僕はただ、勇気が出なくて。時差を考えながらメッセージを打っています。ちゃんと調べられたら日本にいるのはすぐわかるけど……。しかも、実は最近、香奈子に子どもが生まれていて……。香奈子に似たかわいい女の子です。彼女は気丈だから周りの人に頼りながらも、しっかりやっているみたいですが」

 いつまでもこのままというわけにはいかない。香奈子さんから送られてくる自分の子どもの写真を見るたびに泣けてくる。わかってはいるのだが、心の深いところで通じ合ったはずの女性たちと面と向かうのが怖い。相変わらず病気のこともろくに聞いてこない母との“実家”が、今はいちばん心地いいのだという。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月28日掲載

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