クローゼットのなかの洋服にマヨネーズ、床には枕のソバ殻 年間2500人 ストーカー男性被害の実態

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発表の10倍以上いる

 ストーカーというと女性が被害に遭うイメージだが、実は男性被害者も一定数存在する。2020年に警察が把握したストーカー被害は約2万件。そのうち男性が被害者となったケースはちょうど2500件で、総数の8分の1に相当する。公になっている数字はそれほど大きくないが、ストーカー問題に詳しいカウンセラーの小早川明子氏によると、誰にも相談できずに苦しんでいる男性被害者は、決して少なくないという。自身もストーカー被害の経験を持つ西谷格氏によるレポート。

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 小早川氏はストーカー相談を20年以上に亘って受けてきたが、被害者の性別は一貫して男女半々。警察の把握している被害件数とは、大きく様相が異なるという。

「対象者への恋愛感情や性的関心、あるいは怨恨によって“過剰な接近欲求”を抱くことは、男女問わず起こることです。そこに性別の違いはありません。ただ、男性は女性に比べ限界まで我慢し続けて、なかなか警察に相談しない傾向があります」(小早川氏、以下同)

 なぜ相談しないのか。

「男性の場合は身体的に優位なので、身体や生命に差し迫った危険を感じにくいということはもちろんあります。ただ、それだけが理由ではないでしょう。警察は男社会なので、『女に追いかけられて困っている』と訴えても、相手にされないんじゃないかという意識がある。そんな相談をするのは恥ずかしいし、みっともない、男のプライドとしてできない。そう思って警察への相談を躊躇している男性被害者は、少なくありません」

 警察にも誰にも相談できないまま、一人で抱え込んでいる男性は実は多いのだ。

「男女とも、警察に相談に行く被害者はごく一部。実際に苦しんでいる人の数は、警察発表の10倍以上いるのではないかと思います」

ストーカーされても仕方がない?

 女性被害者に比べれば、身体的な危険が少ないとはいえ、当事者の苦悩は並ではない。

「男性の場合は“怖い”というより“苦しい、困った、不安だ”という感情を抱くことが多いです。職場に押し掛けられて大声で叫ばれたり、妻に嫌がらせをされたり。人生を壊されるという苦しさから、精神病になってしまうケースもあります」

 男性被害者の場合は、「殺す」と脅されるよりも、「死んでやる」と言われてリストカットの画像を送られるケースなどが目立つという。

 精神的な苦痛は計り知れず、決して看過できるレベルではないのだ。

 加えて、男性ストーカー被害者には、ある種の偏見が付きまとう。

“二股をかけたり、何か不誠実な付き合い方をしたりしてたんじゃないのか”、“別れ方が悪かったんじゃないか”というものだ。

「不誠実な人も一定数いますが、決して典型例ではありません。どんな別れ方をしても、相手の接近欲求が強すぎて止まらない限り、ストーカー被害に遭います」

 仮に不誠実な点があったとしても、ストーカー行為という非合法な手段を用いられていい理由にはならない。異議申し立ては、合法的にすべきことである。

「以前、ある音楽プロデューサーの男性が20年以上に渡ってストーカー被害を受けていたことを公表しました。私はワイドショーの番組に専門家として出演したのですが、加害者との間に性行為があったと伝えられると、スタジオの空気がガラッと変わったので驚いたんです」

 スタジオでは、男性被害者にも“落ち度”があるという声があがったという。だが、本当に“どっちもどっち”と言えるのだろうか。

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