博多7億円金塊強奪犯から「事件の絵を描いた人物」と名指しされた男が逮捕されていた

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 福岡市博多区の路上で2016年7月、7億5000万円相当の金塊が持ち去られた『博多7億金塊窃盗事件』をご存じだろうか。2019年に、主犯とされる男と、お笑い芸人との写真がスクープされたことで、皮肉なことに事件そのものより“芸能界と裏社会”との繋がりがクローズアップされる事態となったが、事件に関わったとして有罪判決を受けた者たちは口を揃え「これは強盗事件ではない」と主張していた。

 主犯格として逮捕起訴され、懲役9年が確定した野口和樹(逮捕当時43)受刑者は、逮捕当初からいまも「被害者側との間で話がついていた出来レースだ」と訴え続けている。

「金塊を盗まれたという形式的な状況を作りたい」「税金対策」と被害者側から持ちかけられ、事件を作り上げたというのだ。

 事件が起きた後には、金塊の取引に絡む強盗事件が続けて発生していた。2017年4月20日には同じく福岡市で男性会社員が金塊を買い付けるために銀行から引き下ろしたばかりの3億8000万円を強奪された。

 その翌日、東京・銀座の路上で、自営業男性の持っていた現金4000万円が入ったかばんを奪われる事件が発生。

 さらにその直後、大阪・ミナミの貴金属買取店前の路上で現金7000万円を運んでいた男性が3人組の男に襲撃され、現金を奪われそうになる事件も起きている。これは直前に金塊を換金した金で、のちに被害者側が金塊を密輸したとして関税法違反容疑により逮捕されている。銀座の事件の被害金も、直前に金塊や反物などを売却したものだったという。

 近年発生する金塊取引がらみの強奪事件には、背景に金塊の密輸が絡んでいることが少なくない。

 実は、冒頭で紹介した事件の被害者とされる金属販売業者のKは、昨年、消費税法違反と地方税法違反で逮捕起訴されていたのだ。公判で明かされた動機は、金塊強奪事件の受刑者の主張と同じ「税金対策」だった。

 公判は仙台地裁(大川隆男裁判長)で昨年夏から秋にかけて開かれた。彼とともに告発され、のちに不起訴となった経理担当の役員は、架空の取引書類作成をKに指示され、これに応じてきたという。証人出廷した際は「違法性があるとは思っていたが、反対できませんでした。資金が回らなかったという事情もあったからだと思います」と、違法性を認識した上で加担していたことを証言している。

 昨年8月には被告人質問が行われた。保釈されていたKはトレンディドラマの俳優のようなロン毛に青いスーツという風貌で法廷に現れ、傍聴席を落ち着かない様子で見回しながら、証言台の前に座った。そして当時の脱税行為について小声で語った。

弁護人「高額な宝石を輸出販売する目的で平成27(2015)年に会社を設立しましたね。これは脱税行為実行のための設立と受け止められそうですが?」

K「それありきではありません。金属買取権を持っていて別の会社をやっていたが、高額な宝石を輸出販売するために設立したのが今回の会社です」

 不正に還付した消費税は、Kの別会社の従業員への給与や負債の返済に回していたとも語った。昨年5月の時点で、税金2400万円の滞納も判明し、債権者からは民事訴訟を提起されている。一方で、会社設立の翌年には8800万円でジェット機を購入していたことも判明している。ちなみにこれは金塊強奪事件発生の年のことだが、公判では次のように弁明した。

K「個人で購入しました。その貴金属販売業と別に、貴金属買取の仕事をしていました。そちらの儲けが大きかったです」

野口受刑者からの手紙

 野口受刑者は著書『半グレと金塊 博多7億円金塊強奪事件 「主犯」の告白』(宝島社)の中で、Kを「事件の絵を描いたとされる」人物と名指ししており、「金塊投資で多額の出資金を集め未返金トラブル」もあると記している。今回、Kが逮捕されたことを受け、服役している長崎刑務所から私に宛てた手紙で次のようにコメントした。

「私達は、逮捕当時から、被害者と言って憚らないKが計画したもので、出来レースである事を一貫主張してきた。一方、K側の依頼理由を聞くと『税金対策の為で…』ということだった。当然、この経緯についても取り調べや裁判でも主張してきた。この主張がまんざらでもない事が、今回のKの逮捕、起訴事実を見れば分かる筈だ。(中略)警察はなぜ、この私らの事件を慎重に調べなかったのか。依頼者は事件のキーマンのはずだが、逮捕はおろか事情聴取すらしていない。杜撰な捜査だった」

 野口受刑者は現在、再審請求の準備を進めている。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
傍聴ライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)『つけびの村  噂が5人を殺したのか?』など。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月8日掲載

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