独立式典で「文在寅」が猿芝居 韓国大統領選挙の底流を読む

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 2022年3月の大統領選挙に向け韓国がそろりと動く。さらに強硬な反米反日政権が登場するのか、中道保守政権が生まれるのか――。韓国観察者の鈴置高史氏が選挙の底流を読む。

ボールは日本側にある

鈴置:3月1日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「我が政府はいつでも日本政府と向き合い、対話を交わす準備ができています」と日本との関係改善を唱えました。

 日本からの独立を祝う記念式典の演説でのことです。自称・元徴用工や元慰安婦の裁判により日韓関係がこう着しました。その責任を日本側に押し付ける狙いです。

  すぐさま外交部が「ボールは日本側にある」と主張したことからもその意図は明らかです。崔英森(チェ・ヨンサム)報道官は翌2日の定例記者会見で、大統領の対日発言に関し以下のように語りました。

・対話を通じた問題解決の重要性と韓日関係発展のための真心を、新年の記者会見に続き昨日、大統領が改めて伝達されたものです。したがって今後の韓日間の正常な外交的疎通は、今や日本の側にあることをもう一度、強調しようと思います。

「合意破り」は誤魔化し責任転嫁

 左派系紙のハンギョレもすかさず社説で「日本が悪い」と政府に唱和しました。「文大統領『相手の立場を考えての対話』、日本も応じてほしい」(3月2日、日本語版)からポイントを引用します。

・文在寅大統領は1日、韓日関係について「過去に足を引っ張られているわけにはいかない」とし、「過去の問題は過去の問題として解決していき、未来志向的な発展により力を入れなければならない」と述べた。韓日関係改善の意向をいつにも増して強く明らかにしたものだ。
・文大統領の記念演説について日本政府は「重要なのは、両国間の懸案を解決するためには、韓国側が責任を持って具体的に対応すること」だと明らかにした。残念だ。日本政府は「関係改善の契機は韓国が作らなければならない」という硬直した姿勢から脱し、対話に乗りだしてほしい。

 バイデン(Joe Biden)政権が誕生しました。副大統領時代のバイデン氏は2015年の日韓慰安婦合意で保証人を務めましたから、文在寅政権が合意を破ったことは分かっています(「かつて韓国の嘘を暴いたバイデン 『恐中病と不実』を思い出すか」参照)。

 そこで文在寅大統領は1月18日の新年記者会見で「慰安婦合意は公式的な合意だ」と語り、「合意破り」をとぼけて見せたのです(「韓国人はなぜ、平気で約束を破るのか 法治が根付かない3つの理由」参照)。

 そのうえで3月1日、「日本との関係改善に努力している」フリをし、バイデン政権に「それに応じない日本が悪い」と訴えたわけです。

「猿芝居」を冷笑した保守系紙

 もっとも保守系紙は文在寅政権の「猿芝居」に冷笑を浴びせました。朝鮮日報の社説「4年『反日征伐』の文が突然『過去史に足を取られるな』 これでも外交か」(3月2日、韓国語版)がことのほか手厳しい。ポイントを訳します。

・韓日関係の破局は、文大統領が就任するや否や韓日慰安婦合意を破棄することで始まった。その後4年間、国が100年前に戻ったかのように反日征伐、土着倭寇征伐が繰り広げられた。
・この政権は韓日問題で外交的な解決法を語ると、直ちに「土着倭寇」と決め付けた。というのに今になって「過去史問題を未来の問題と分けないと混乱し、未来の発展に支障きたす」「過去に足を取られるわけにはいかない」などと言う。
・過去を利用し未来を壊す勢力は誰か。文大統領の二重性に驚きはしないが、何らかの説明があってしかるべきだ。
・何の対策も無しに韓日問題を国内政治用に利用できるだけ利用したあげく、大統領の発言と態度が180度変わった。
・大統領自らが韓日慰安婦合意に対し「重大な欠陥が確認された」「新たに協議せねばならない」と破棄しておいて1月の新年記者会見では「(その合意が)両国政府間の公式合意だったという事実を認める」と一朝にして180度ひっくり返した時も、何の説明もなかった。
・韓米日の協力を重視する米バイデン政権が生まれるや否や、言葉を覆したのだ。具体的にどうしようとも言っていない。国際社会がこんな韓国をどう見るだろうか。恥ずかしい限りだ。

卑屈な文在寅外交

――「土着倭寇」とは?

鈴置:「倭寇」は日本人を侮蔑する言葉。「土着」とは「韓国に密かに住みついた」くらいの意味。要は「日本のスパイ」といったニュアンスの罵倒語です。

 朝鮮日報はじめ保守は、文在寅政権を含む左派から「土着倭寇」と罵倒されてきました。文在寅が突然に変節したので「『土着倭寇』と他人を非難したお前は何なのだ」と反撃に出たのです。

 文在寅政権は日本を攻撃する武器として「慰安婦」を使ってきましたが、同時に国内では対保守攻撃に活用していた。それが裏目に出たのです。

 野党第1党の「国民の力」も3月1日「3・1節の大統領演説には慰安婦のおばあさんへの言及がなかった」「政府与党は日本帝国主義下の痛みを自分たちの利益のために使っているだけ」との論評を発表しました。

 今回『慰安婦』に言及しなかったのは、文在寅政権がそれを都合よく利用してきた証拠――と、政権の痛いところを突いたのです。

「国民の力」のチョ・テヨン議員は「卑屈だ」と大統領の演説を非難しました。外交第1次官も歴任した専門家だけに、米国の顔色を見て右往左往する韓国を日本人が哄笑する様が目に浮かんだのでしょう。そこで「卑屈」と嘆いたと思われます。

戦い続ける京畿道知事

――「卑屈」ですか……。

鈴置:チョ・テヨン議員を含め、保守の多くは反米につながる対日強硬策には批判的でした。が、それを軌道修正するためとしても「大統領の日本向け揉み手」が国の恥であることに変わりはないのです。

 まして左派にとって「揉み手」は裏切りです。元・慰安婦の1人、李容洙(イ・ヨンス)氏は2月16日、国際司法裁判所(ICJ)に日本政府を訴えるよう韓国政府に要求しました。弱腰に転じた文在寅政権への牽制です。

 中央日報の「文大統領と差別化?…三一節に『親日清算』強調した京畿道知事」(3月1日、日本語版)という記事は、そんな左派内部の亀裂に焦点を当てました。

 見出しの「京畿道知事」とは、文在寅大統領よりも左と見なされる李在明(イ・ジェミョン)氏。「日本は敵性国家だ」と発言するなど過激な言動で有名です。与党「共に民主党」所属ですが、大統領との関係はよくありません。

 中央日報は穏健化した大統領の3・1節演説と比べ、李在明知事の同日の演説が対照的だったと報じたのです。

 確かに、李在明知事が書面で発表した3・1節の記念演説は「ナチに等しい親日勢力が未だに韓国に根を張って既得権をむさぼっている」と決め付けたうえ「親日派を見つけて追い出す」と保守を恫喝する激しいものでした。

 「敗北し分割されるべき日本の代わりに、韓半島が分割の痛みを被った」とも述べ、名指しはしていませんが米国をはじめとする周辺大国に対する恨み節も盛り込んであります。民族主義を全面に打ち出して人気を得る人なのです。

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