慰安婦問題を言い続けるなら見捨てるぞ 韓国を叱りつけたバイデン政権の真意は

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2021年2月15日掲載

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「いつまで『慰安婦』を持ち出すのか。日本と仲良くできないなら見捨てるぞ」と米国が韓国に言い渡した。J・バイデン(Joe Biden)政権が文在寅(ムン・ジェイン)政権を見限ったのだ。韓国観察者の鈴置高史氏が解説する。

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耳にタコの「慰安婦」「徴用」

鈴置:東亜日報が興味深いニュースを報じました。バイデン政権の韓国担当者が同紙に対し、慰安婦や徴用工問題を唱え日本と対立を続けるのなら同盟を打ち切るぞ、と威嚇したのです。

 「『最悪に突き進む』韓日関係に…米『韓国に対する期待を放棄するかも』と圧迫」(2月10日、韓国語版)から、その部分を訳します。

・バイデン政権当局者は2月9日(現地時間)、本紙に「私たちはQUAD(=クワッド、日米豪印戦略対話)の協議体化を急いでいる。日本との関係改善にも注目している」とし、「韓国が(日本との関係で)前に進まないなら、バイデン政権はパートナーとしての韓国に対する期待を放棄しうる」と述べた。
・この当局者は「我々が韓国から聞かされることといったら、シンガポールの米朝首脳会談の精神と、慰安婦、強制徴用問題だけ」、「世界的なイノベーション国家である韓国が、北朝鮮や日本問題に関しては、いかなるイノベーションもしていない」と語った。

 韓国は元慰安婦、自称・徴用工を問題化して日本と摩擦を引き起こし、それを理由に日米韓の安保協力を拒んできました。しかし、同盟強化を図るバイデン政権は、歴史を言い訳に同盟を壊す茶番劇は辞めろと、就任早々から韓国を叱ったのです。

 ことに慰安婦問題はB・オバマ(Barack Obama)政権当時、副大統領だったバイデン氏が日韓合意の保証人になって解決を図った経緯があります。(「かつて韓国の嘘を暴いたバイデン 『恐中病と不実』を思い出すか」参照)。

 安倍晋三首相と朴槿恵(パク・クネ)大統領が交わした慰安婦合意を、文在寅大統領はいとも簡単に反故にした。そのうえ、「徴用工」にも対日戦線を広げました。顔に泥を塗られたバイデン大統領が「いい加減にしろ」と怒り出すのも当然です。

 怒りの激しさは「パートナーとしての韓国に対する期待を放棄しうる」との表現からうかがえます。外交的な修辞にくるんでいますが、要は「日本との関係を改善しないと、同盟を打ち切るぞ」と言い放ったのですから。

日韓関係改善のフリ

――文在寅政権は日韓関係を改善するでしょうか?

鈴置:しないでしょう。韓国政府にとって「改善」とは、何らかの形で日本政府が元慰安婦判決と自称・徴用工判決に従うことです。

 ことに後者は「日韓併合は不法だった」と認めるよう日本に迫る判決です。「植民地になったことなどなかった」と信じたい韓国人の輿望を担った判決である以上、簡単に後ろに引けない。

 一方、日本政府が譲歩する可能性はありません。「併合は不法だった」と認めるつもりは毛頭ない。国交正常化の際に結んだ日韓基本条約を覆すことにもなるからです。

 だから「韓国は国際法違反の状態を引き起こした。自ら是正すべきである」と言い続け、話し合いも拒否しているのです。

 日本と戦う際、韓国の頼みの綱は常に米国でした。が今回は、米国は韓国側に立たなかった。韓国の離米従中を決して許さない政権が登場したからです。韓国が歴史問題を言い募るほどに、米国はそれを言い訳と見なし、怒り出しているわけです。

――文在寅政権はどう、凌ぐのでしょうか。

鈴置:日韓関係改善に努力するフリをして誤魔化すつもりと思われます。1月18日、新年の記者会見で文在寅大統領が姿勢を一転し、慰安婦合意を政府間の合意として認めました(「韓国人はなぜ、平気で約束を破るのか 法治が根付かない3つの理由」参照)。

 「韓国は関係改善に向け、これだけ努力しているのに日本が応じない」との米国向け宣伝です。

「北の非核化」は急がない

――フリだけされても米国は困りませんか?

鈴置:そうでもないのです。「日米韓」の連携が必要な北朝鮮の非核化は今や、米国にとって緊急度が高い問題ではなくなっています。ワシントンでは、北朝鮮が核・ミサイル実験を繰り返していた4年前の緊迫感はすっかり薄れています。

 D・トランプ(Donald Trump)政権の軍事的な圧迫と、その後の懐柔のおかげで2017年末以降、北朝鮮は核実験もICBM(大陸間弾道弾)の実験も中断している。

 とりあえずは実験の再開を抑え込んでおき、交渉はおいおい進めればいい、との判断にバイデン政権は傾いているようです。

 文在寅政権の任期は2022年5月まで。あと1年半もありません。そんな政権は無視し、「日米韓」の協力体制は、次の「まともな政権」と作ればいいわけです。

 中国包囲網だって、今すぐに韓国を入れる必要もない。QUADも初めは韓国なしでスタートすればいい。もし、G7拡大に動くとしても「韓国抜き」で始めればいいのです。

 中国の顔色をうかがい、包囲網への参加から逃げ回る文在寅政権を米国が相手にする必要はどこにもない。バイデン政権は従中・従北の文在寅政権を見限ったのです。

「もう、反米政権は選ぶな」

――ではなぜ、「見捨てるぞ」と脅すのでしょうか?

鈴置:あれは文在寅政権を脅すというよりも、韓国人を脅しているのです。「次もこんな反米政権を選ぶのなら、同盟を打ち切るぞ」と韓国人に言い聞かせているのです。

 先に引用した東亜日報の記事。読者コメントの約7割が「文在寅のために米国との同盟を失う」と危機感を表明するものでした。

「政権をすげ代えればいいのだ」「文政権は自他共に認める左派政権で、親中・親北政権だ。(米国は同政権を)放っておき、1年待って次期政権と政策的な協力を議論すべきだ」との書き込みもありました。韓国でも米国のサインを読みとった人が出たのです。

 なお、残りの約3割がこの記事に否定的な書き込みでした。ただ、文在寅政権を真正面から支持するものはほとんどなく、「日本側に立った米国や東亜日報」への反発が中心でした。

 東亜日報は保守系紙で読者の多くが親米派です。韓国人の平均像とは言えません。が、東亜日報に「書かせた」米政府の韓国担当者がこのコメント欄を見たら「手ごたえはあった」と喜んだでしょう。

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