慰安婦問題を言い続けるなら見捨てるぞ 韓国を叱りつけたバイデン政権の真意は

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VOAが威嚇攻勢

 米政府の警告は日韓関係に留まりません。国務省が運営するVOA(Voice of America)の韓国語版(発言部分は英語と韓国語)を通じ「文在寅政権とは軍事的にもスクラムを組めない」と執拗に訴えています。

 1月末から2月上旬までの短い期間に、B・ベル(Burwell Bell)退役陸軍大将の発言を引用した記事が3本も載りました。同大将は2006年から2008年まで米韓連合軍司令部の司令官を務めた朝鮮半島専門家です。

・「元韓米連合司令官ら『合同訓練を正常化せよ』…訓練縮小の主張に『準備体制を毀損』」(1月28日)

・「ベル元司令官『米韓は共同声明を通じ北朝鮮の挑発には懲らしめるぞと警告すべきだ』」(1月30日)

・「元韓米連合司令官『性急な作戦統制権の転換、戦時の派兵と核打撃能力を制限』」(2月10日)

 文在寅政権は北朝鮮の顔色を見て、米韓合同演習の再開に反対している。VOAは1番目の記事で「それでは韓国をちゃんと守れないよ」とクギを刺したのです。

核の傘も提供しない

 2番目の記事は「北朝鮮が核・ミサイル実験を実施したら報復するぞと米韓で警告しておこう」との呼びかけです。

 バイデン政権の発足に伴い、北朝鮮と中国が米韓同盟の結束度合いを確かめたくなっている。それを試すために北朝鮮が核・ミサイル実験を再開する可能性が高いから、共同声明を出して牽制しておこう――とベル大将は訴えたのです。

 確かに、米韓の対北政策は大きな亀裂を生じていて、ここにつけ込まれそうになっています。文在寅政権は米朝首脳会談の早期開催を米国に求めている。

 一方、バイデン政権は「首脳会談は政治ショーに終わる」と極めて否定的です。先に引用した東亜日報の記事で、米政府が「慰安婦」「徴用工」と並べ「シンガポールの米朝首脳会談の精神」を批判したのもそのためです。

 米国とすれば韓国に米国寄りの姿勢を表明させ、亀裂を隠したい。文在寅政権が「報復」を唱える米韓共同声明に応じるとは、とても考えられないのですが。

 3番目の記事は、韓国軍の戦時作戦統制権の返還を任期内に実現しようと狙う文在寅政権への牽制です。返還と同時に在韓米軍は韓国軍司令官の指揮下に入る約束になっています。

 左派政権が戦争を指導することになれば、どれだけ本気で北朝鮮と戦うか怪しい。米軍兵士の命が危うくなります。これほど北朝鮮に弱腰な左派政権が登場するとは、米国は予想していなかった。

 ただ、今さら「左派政権の指揮は受けない」と言えない。そこで有事の際に兵を増派しないし、核の傘で守らないかもしれないと、同盟無効化をちらつかせて返還に反対したのです。

 米国はVOAを通じ、溜めていた要求を一気に突き付けた。「米国をとるのか、左派政権をとるのか」と韓国の国民に踏み絵を迫りながら。

通貨危機でお仕置き

――米国も露骨に脅しますね。

鈴置:VOAの極め付きの記事は2月11日の「米国務省、『中国のTHAADへの圧迫、不当で不適切…北朝鮮のミサイルへの対応力強化を計画』」です。

 文在寅政権が韓国での運用を邪魔してきたTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)をさらに配備するぞ、と米国は言い出したのです。韓国がこれを受け入れば、中国からタコ殴りにされるのは目に見えています。

 米政府は文在寅政権が窮地に陥る要求も大声で突き付け始めた。配慮というものが一切ない。「どうせこの政権とは協力できない」と見切ったことがよく分かります。韓国人がこれらの記事を読んだら「バイデン政権は文在寅政権を見捨てたな」と自然に考える仕掛けにもなっています。

――これだけ脅せば、次は親米政権が登場しますか。

鈴置:そうは簡単にいかないのが韓国という国です。左派だけでなく保守も「米国が怒っているようだけど、少々の甘えは許してくれるはず。韓国に兵を置いておきたいのだから」と考えがちなのです。

 口で脅すだけではなかなか効きません。1997年の通貨危機のように「痛い目」に遭わないと、言うことを聞かない人たちなのです。
 
 1992年に中国と国交を樹立したばかりの金泳三(キム・ヨンサム)政権は米国の軍事情報を中国に流していたと、米軍は見ています。米中二股の走りです。

 米国は韓国から外貨が流出した1997年秋、助けなかったうえ、日本に対し韓国にドルを貸すなと命じました。韓国は外貨繰りに困り結局、IMF(国際通貨基金)の救済を受ける羽目に陥りました。

 米国は裏切り者、韓国を金融という武器を使ってお仕置きしたのです(『米韓同盟消滅』第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。

金融ツートップがバブルを警告

――米国は再び、通貨危機を「発動」するのでしょうか。

鈴置:条件は整いつつあります。生産年齢人口の減少により韓国の経済規模は縮み始めました。一方、株式・不動産市場におカネが流れ込み高値が続いています。日本の1990年前後の状態と似ています。

 韓国市場には外国からホットマネーが入り込んでいる。そのうえ、ウォンが国際通貨ではないため、バブル崩壊が通貨危機に直結しやすいのです。

 中央銀行である韓国銀行も、日本の財務省にあたる企画財政部も危機感を強めています。1月5日、金融界の賀詞交換会で洪楠基(ホン・ナムギ)副首相兼企画財政部長官と李柱烈(イ・ジュヨル)韓銀総裁という金融のツートップがバブル崩壊を警告しました。

 洪楠基副首相は「実物経済と金融のかい離に対する懸念が高まっている」と述べました。李柱烈総裁は「流動性供給と返済猶予措置により潜在化していたリスクが今年は現実化すると予想される。高いレベルの警戒感が必要だ」と語りました。

 というのに、韓国証券市場では個人が買い進み、1月7日にKOSPI(韓国株価総合指数)は史上初めて3000の大台に乗せました。

 1月28日、IMFが「いつまでも空売り規制を続けるべきではない」と韓国に忠告しました。規制を続けるほどにホットマネーが入り込み、バブル崩壊の際の衝撃が大きくなるからです。しかし、3月15日に解除の予定だった空売り規制は5月2日まで延期されました。2月3日のことです。

 規制解除を延期したのは4月7日のソウルと釜山の市長選挙を政府が意識したためです。買い方に回っている個人、すなわち有権者に忖度し、選挙前の株価急落を予防したのです。

 李柱烈総裁は「小さな衝撃でも市場が大きく揺れる状態」とも指摘しています。この空売り規制解除の延期が「小さな衝撃」にならないか、関係者はかたずを飲んで見守っています。

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