慰安婦問題を言い続けるなら見捨てるぞ 韓国を叱りつけたバイデン政権の真意は

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「サムスンいじめに乗り出す日米」

――1997年にひどい目に遭った韓国が、通貨危機を警戒しないのでしょうか。

鈴置:人間の性(さが)とはそういうものでしょう。どの国も忘れた頃にまたバブルを起こす。韓国人も多くが「1997年当時は経済規模が小さかったから通貨危機に陥った。大きくなった今は大丈夫」と信じている。通貨危機とは外貨繰りの問題で規模とは関係がない。大きな会社でも倒産するのと同じことなのですが……。

 ただ、米国が発動する「お仕置き」は通貨危機だけではありません。韓国で「従中の韓国に対し、米国はサムスン電子イジメに出るのではないか」との懸念の声があがっています。

 朝鮮日報は2月10日、「台湾TSMC、日本と手をとり反中連合の先鋒に」(韓国語版)を載せました。前文を訳します。

・半導体ファウンドリー(委託生産)の絶対的な強者、台湾のTSMCが反中の米日連合の求心点に浮上した。米・日政府はTSMCを支援することで5G(第5世代)通信・人口知能・自動運転・クラウドなど、未来産業の核心部品である半導体を確保すると同時に、中国の半導体勃興の芽を摘む戦略だ。TSMCは米日両国の全幅の支援を受け、サムスン電子を除け者にして、急成長するファウンドリー市場で独占体制を固める機会を得た。

「文在寅を拘束せよ」

 「サムソンがいじめられる」と、韓国人特有の被害者意識が噴出した記事です。日経の「台湾TSMC、日本に先端半導体の開発拠点」(1月8日)をお手本に書いています。しかし、日経には「サムスン電子を除け者にする」という文脈はもちろん、「サムスン」という単語さえないのです。

 朝鮮日報の記事の読者コメント欄でも、韓国人の恐怖感と怒りが率直に語られています。象徴的なものを訳します。

・愚かな文在寅のガキ。サムスンが滅び、半導体が滅びたら、何で飯を食っていくのか。
・反日反米で、ここぞという時に親中する文在寅は売国奴だ。韓国の積弊、文在寅を拘束せよ。
・文在寅左派政権がなければ、米・日・サムスンが連合体を構成していたのに。1日も早く文政権を終わらせねば経済は元通りにならない。

 反米・反日の韓国に怒った日米が、台湾のTSMCとスクラムを組み、サムスン撲滅に乗り出した――と韓国の読者は考えたのです。

WTOで韓国を批判した米国

 TSMCも中国に工場を持っていて完全な海洋勢力派というわけではない。サムスン電子だって米国工場はありますから、中国派と言い切れない。

 冷静に見れば、朝鮮日報の書きっぷりも、読者コメントも大げさすぎる。ただ、「米日が親中のサムスンを潰す」という認識が生まれた以上、それが利用されることになるかもしれません。

 半導体素材の対韓輸出管理強化の問題。韓国はWTOに日本を訴えましたが2020年7月29日、米国はWTO(世界貿易機関)の協議の場で、「日本の安全保障に必要なことを判断できるのは日本だけだ」と韓国の提訴を批判しました。

 米政府とすれば、さらに踏み込んで「サムスンは中国の5Gに協力しているのではないか」とつぶやき、素材の供給停止を匂わせる手があるのです。韓国では保守派を中心に「反米政権が続くとサムスンが殺される」と騒ぎになるでしょう。

フォトレジストが焦点に

――「供給停止」が効きますか?

鈴置:効きます。5G向け半導体を製造する際に必須なのが、高品位のフォトレジストです(「米中全面対決で朝鮮半島は『コップの中の嵐』に転落 日本の立場は」参照)。

 これは日米の企業しか製造できないとされています。サムスン電子への供給を止めれば、同社はたちどころに5G向け半導体が作れなくなります。

 韓国政府が「国産化に成功した」と言い張っているフッ化水素とは問題が本質的に異なります。5G向け半導体の製造工程では純度の低いフッ化水素も使えます。不良率の上昇を覚悟すればいい。しかし高品位のフォトレジストは「無ければ作れない」素材なのです。

 実際に供給を止める前から、「止めるぞ」と米国が日本と共に脅すだけで、韓国はパニックに陥ります。それは金融市場にも及ぶでしょう。繰り返しになりますが、韓銀の李柱烈総裁が「小さな衝撃でも市場が大きく揺れる状態」と警戒している最中なのです。

反米の本性をむき出す

――文在寅政権はどう出るのでしょうか。

鈴置:とりあえずは米韓関係がうまくいっているように取り繕う。しかし、韓国人も馬鹿ではありません。すぐに実態が露呈します。その時は「反米」の本性をむき出しにして、左派の結集を図ると思われます。

 韓国の大統領の末路は悲惨です。それを防ぐには「自分を監獄に送らない次の政権」を作るしかない。2022年の大統領選挙で親米派が勝ちそうになったら、死に物狂いで阻止に動くでしょう。朝鮮半島で突拍子もないことをしでかすのは「北」だけではないのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年2月15日掲載

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