「男になりたかった」ヒットマンに無期懲役、裁判の傍聴にやってきた“親分”への思いとは?

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商店街近く、自動小銃15発の衝撃

 山口組系の元暴力団員が山口組から分裂し対立する神戸山口組の幹部を自動小銃で殺害したなどとして、殺人や銃刀法違反などの罪に問われていた裁判で、検察側は被告に無期懲役を求刑した。2月8日のことである。ヒットマンである被告の裁判には、指示役を疑われる”親分”が傍聴に訪れていたという。この”親分”が率いる2代目竹中組とは浅からぬ縁のある、元山口組系義竜会会長の竹垣悟氏が解説する。

 2019年11月27日、尼崎市内で、神戸山口組の幹部で3代目古川組の古川恵一元総裁が射殺される事件が起こった。M16と呼ばれる自動小銃15発を、夕方5時ごろの商店街近くの路上でぶっ放したのだから、世間の耳目を大いに集めた。

 逮捕・起訴された朝比奈久徳容疑者(53)は6代目山口組傘下の2代目竹中組の元組員で、事件の約1年前に覚醒剤が原因で破門されている。実際にその後、覚醒剤取締法違反の罪で起訴され、事件当時はその判決を控えた保釈中の身だった。

 法廷で朝比奈被告は、起訴された内容を認めたうえで、「山口組の裏切り者を殺して有名になりたいと思った。インパクトがあると思い自動小銃を使った。神戸山口組の人間を殺して男になりたかった。自動小銃の入手先は言えない」となどと述べている。

 被告自身が、「山口組、裏切り者、神戸山口組」と語っていることからも、そして検察側が「被告はかたくなに供述を拒んでいるが、対立抗争が事件の背景にあり、入手困難な自動小銃での犯行は山口組の関係者から何らかの指示や支援を受けていることが強く疑われる」と指摘していることからも、背景に2015年夏の山口組分裂があることは間違いない。

自動小銃を選んだワケ

 竹垣氏によると、

「古川元総裁が率いていた2代目古川組は、6代目山口組を離脱した神戸山口組に参加します。6代目の竹内照明若頭補佐が直接出張って激励と残留依頼を受けたにもかかわらず、その後すぐ神戸山口組に走るわけですから、ババかけた(義理を欠いた)と言われても仕方ない。6代目側から的にされるのもまた仕方ないですよね」

 実際、古川元総裁は自動小銃を撃ち込まれるまでにすでに2度、襲撃を受けていた。

「この事件のポイントは何と言っても”道具”として自動小銃を使ったことです。そもそも入手が大変だし、持ち運びも扱いも困難。検問でもチャカ(拳銃)ならごまかせるけど自動小銃やと融通ききませんわね。その点、チャカは、”カネが詰まった”ときにシャブとしょっちゅう交換されるくらい、入手するのはワケないんです。コトをスムーズに済ませるにはチャカ(拳銃)1つあればよく、自動小銃は過剰。そして、道具はチャカであろうと何であろうと、ヤクザ同士の抗争で1人殺めると求刑は無期懲役というのが相場です。それやのになんで選んだのかを考えるとき、朝比奈被告の”男になりたい”という言葉がヒントになりますね」

 朝比奈被告は、6代目山口組の若頭補佐で2代目竹中組の安東美樹組長のドライバーを務めていたことがあったという。

「安東組長は検察側が” 山口組の関係者から何らかの指示や支援を受けていることが強く疑われる“と指摘した対象だとされていますね。実際、そこは証拠も何もないので判然としませんが、私が所属していたころの竹中組のやり方を言うなら、そういった何かしらの指示・示唆を抗争時にしてしまうと殺人教唆で親分の身柄も危うくなるので、あくまでも平時に”抗争が起きたときの心構え”を誰にも聞こえないところでこっそり説いていました。上に累が及ばないようにするための自衛手段です。暴排条例でヤクザへの締め付けが厳しくなっている中、他の組織でも同様のことが行われていると思われますが……」

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