「教育委員会にバレたら、俺クビだから」 27年越しに「わいせつ教員」認定、被害女性が勇気の告発

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 聖職なんて言葉も今や昔――。いわゆる「わいせつ教員」を巡るトラブルは後を絶たないが、遂には裁判所が27年の時を超え事実を認定。被害女性の執念が実る一方、教育委員会からクビを告げられた男性は当惑するばかり。果たして二人の間には何が起こっていたのか。

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 哀しい哉、世間の感覚が麻痺してしまうほど、わいせつ教員の性犯罪は後を絶たない。だが、北海道・札幌市教育委員会の発表には、耳を疑った人も多かろう。なにせ事件は、今から27年も前の出来事なのだから……。

 1月28日付で懲戒免職処分が下ったのは、札幌市内の公立中学校に勤務していた男性教諭(56)。処分理由は、〈平成5年から平成6年にかけて、被害者1名(女性、平成5年3月当時は中学生)に対して、自宅においてキスをしたほか、学校内で胸を触ったり、車の中で上半身の服を脱がせるなどのわいせつ行為を行った〉ことだった。

「中学の卒業式を前に、男性教諭から“美術展のチケットがあるから行こう”と誘われたのが始まりです」

 と話すのは、被害を告発した都内在住の写真家・石田郁子さん(43)だ。

「将来は美術関係の道に進みたいと考えていた15歳の私にとって、美術の先生は憧れの対象で、絵の勉強を頑張ったご褒美だと思い嬉しかった。ところが美術館で腹痛になってしまい、車で先生の自宅へ連れて行かれ、“実は好きだったんだ”と言いキスをされました。突然のことに驚いて、過呼吸になった私を先生は慌てることもなく横に寝かせ、さらに覆いかぶさってきたのです」

 石田さんが進学しても関係は続く。最終的には彼女が北大2年生の頃、男性教諭側に交際相手が出来て関係は解消したが、心にわだかまりを抱え生きてきたという。

「10代の頃の私は、異性と付き合うのはこういうことだと信じ込まされてきたけど、先生と生徒という従属的な関係性を強いられたまま性的虐待を受けていたことに気づきました。自ら教育実習生として教壇に立った時、教師の立場で生徒に手を出すなんてやってはいけないことだ、と実感できたのも大きかったですね」(同)

 他にも被害者が出ているかもしれない。彼を教壇に立たせたままでいいのかと考えた石田さんは、2001年と16年に市教委へ被害を訴えたが、真摯に耳を傾けることなく男性教諭が「完全否定」したことを理由に調査は打ち切られた。業を煮やした彼女は、19年に東京地裁で札幌市と男性教諭を相手に損害賠償を求めて民事訴訟を提起。一審、二審と訴えは退けられたが、東京高裁では辛うじて中学時代のわいせつ行為などが「事実認定」されたことで、市教委が処分を下したのだ。

 裁判で決定的な証拠となったのは、15年に石田さんが覚悟を決めて男性教諭と約20年ぶりに再会、札幌市内の居酒屋で、中学時代の一件を問い質したやり取りを録音した音声データだった。

 以下、そのやり取りを抜粋してみよう。

石田さん

「先生、覚えてます?」

男性教諭

「玄関でキスした」

石田さん

「玄関でしたっけ?」

男性教諭

「そう」

石田さん

「先生が上になって」

男性教諭

「はい」

石田さん

「キスしたり」

男性教諭

「はい」

石田さん

「けっこう覚えてる?」

男性教諭

「当り前じゃないですか」

石田さん

「分かるとまずいとか、あったんですか?」

男性教諭

「クビです。当然、教育委員会にばれたら、俺クビだから」

「失敗でした」

 もはや言い逃れはできないように思えるが、当の男性教諭の言い分はこうだ。

「録音された時に彼女の発言を肯定したのが失敗でした。以前から精神的に不安定な方で、同じような妄言を何度も聞かされてきた。否定すると激昂されるから、その場をおさめようと流してしまったのです……」

 そもそも彼女が中学の頃は面識がないと主張する。

「授業中に会話を交わしたことはあったかもしれませんが、多くの生徒の中の一人でした。高校に入った彼女から、家庭の事情を相談したいと連絡があって初めて二人で会いましたが、わいせつ行為などしていません。彼女が北大生になってから交際を申し込まれ、元教え子なので悩みつつも受け入れたのですが1年ほどで別れました。性行為はありましたが、20年以上前の一般的な男女の恋愛に過ぎず、訴えられるなど青天の霹靂。懲戒免職になるのが理解できません。処分後は妻の収入だけでは厳しくバイトなり仕事を探す日々。私自身、1月初めには鬱病と診断され、身の潔白を証明しないと気がおかしくなる。必ず復職して悪いことはしていなかったと胸を張れるまで闘います。友人たちとSNSで発信したり会を設立したりして、人事委員会に働きかけます」(同)

 そう宣(のたま)うが、かくも主張は縺(もつ)れていがみ合う。その歳月が長かった分、解決するまでにはまだ相応の時間が必要だろう。

週刊新潮 2021年2月11日号掲載

特集「『27年の時』を超え裁判所は『わいせつ教員』認定! 『被害女性』の執念と『クビになった男』の当惑」より

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