「菅政権」を直撃! 2つの「政治とカネ」問題が意味すること、再発防止策とは?

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特捜検察の復権

 もう一つの不祥事が、農水大臣への利益供与疑惑だ。報道によれば、鶏卵業者アキタフーズ(広島県福山市)の元代表が、顧問を務めていた日本養卵協会による「アニマルウェルフェア」国際標準化に反対する要望書の提出などに関して、現金500万円を吉川貴盛農相(当時)に手渡していたという。

 アニマルウェルフェアとは、家畜の飼育(生産)過程における苦痛をできる限り除去しようとする概念で、主にEUで基準化が進んでいるものだ。

 日本に導入されて鶏の「止まり木」設置などが義務化されると、国内鶏卵業者への経営ダメージは大きい。

 そこで業界団体として農水大臣に反対の陳情を行った訳だが、そのこと自体は納税者・有権者による「請願」として全く問題はない。

 しかし、仮に、鶏卵業者への補助金制度(約52億円の鶏卵生産者経営安定対策事業)等とあわせて、特定の業者に有利になるように計らってもらう狙いで、農水大臣としての職務権限行使に関連して金銭が授与されていたとしたら、これは贈収賄を疑うべき案件ということになる。

 吉川氏は12月22日に体調不良を理由として議員辞職したが、東京地検特捜部と広島地検は強制捜査に着手、25日には吉川氏の事務所や議員宿舎を捜索した。

 現時点で事の真相は不明だが、今回の疑惑浮上で一つだけ確かに言えることがあるだろう。それは、「特捜検察」が復活したということだ。

政治的コンプラは?

 これまでにも、スパコン助成金詐欺事件(2017年12月)やリニア新幹線談合事件(2018年3月)を摘発するたびに、大阪地検特捜部FD改ざん事件(2010年9月)以来停滞を余儀なくされてきた特捜検察「復活の狼煙」が上がったという観測もされてきた。

 しかし、それらはあくまでも個別の摘発案件だった。

 今回は、河井前法相夫妻事件で得られた捜査資料を一つの端緒として、以前から関心が寄せられていた「農水関連汚職」にメスが入ったという点では、いわば「点」から「面」への進化という連続性があり、もはや特捜検察は復活の「狼煙」を上げたと言うのでは不十分であろう。

 2020年1月31日に閣議決定された黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題に端を発した「政治と検察」の緊張関係の中で、今回の二つの捜査案件は特捜検察が完全復活した印だと後年振り返られることになるのではないか。

 永田町には「桜を見る会前夜祭」疑惑と「鶏卵業者」疑惑の間に関連性を見出そうとする向きもある。

 「桜」が安倍前総理側への牽制パンチであり、「卵」は菅総理側へのカウンターパンチ(吉川元農相は菅総理の当選同期で盟友かつ二階派の事務総長)であるというのだが、事の真意は論証不能と言う他ない。

 しかし、現在の林真琴検事総長率いる法務検察がそのような政局(権力闘争)から一歩引いた所で、本来的な検察の任務である不正の摘発を粛々と行うことが検察の独立性を維持するのに必要であるとして原点に立ち返り、不退転の決意で任を果たしているのだとしたら――。

 それは、政治が今後、これまでとは次元の異なる政治的コンプライアンスを要求されるフェーズに入ったことを意味すると言えるだろう。

北島純
社会情報大学院大学特任教授 専門は情報戦略、腐敗防止。最近の論文に「外国公務員贈賄罪の保護法益に関する考察―グローバルな商取引におけるインテグリティ」(社会情報研究第1巻第1号)「グローバル広報とポリティカル・コンプライアンス」(社会情報研究第2巻第1号)等がある。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年12月31日掲載

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