巨人リーグ優勝、「原監督」にあって、「井口監督」にないものとは【柴田勲のセブンアイズ】

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 原辰徳監督(62)率いる巨人が2年連続47度目(1リーグ時代の9度含む)のリーグ優勝を達成した。今季は新型コロナウイルスが猛威を振るった影響で特殊なシーズンとなった。

120試合制で2位の阪神に8・5ゲーム差を付けた。最後はもたついたものの大独走である。全員で勝ち取ったリーグ連覇に、心から「おめでとう」と祝福したい。

 このコラムで何度か書いたが、原監督が持つ「野球運」の強さを改めて実感したシーズンでもあった。コロナ禍による特殊なシーズンだったからこそ、私は巨人が優勝すると予想していた。野球の神様がいるのなら、原監督は気に入られていると思う。

 主将の坂本勇人が開幕前に2度のインフルエンザと新型コロナウイルスに感染した。開幕が危ぶまれたが、それでもなんとか間に合った。甥っ子の菅野智之が開幕投手からの開幕13連勝というプロ野球新記録を樹立。3カ月以上無敗だった。

 さらに今季4件のトレードを成立させたが高梨雄平投手はサイド左腕としてセットアッパーの役割を担い、ゼラス・ウィーラー内野手は打撃面のみならず、チームのムードメーカーとしていいアクセントになった。

 打つ手が次々と当たった。

 原監督はもちろん普段から努力しているしフロントの全面的な協力もあった。でも原監督にはなにかがある。それは彼の球歴を辿ればわかるように子供の頃からだと思う。巨人も原監督の持つ強運を信じていればこそ絶大な信頼を置いている。こう感じるのだ。

 パ・リーグは工藤公康監督率いるソフトバンクが3年ぶり19度目のリーグ優勝を決めた。一時は井口資仁監督率いるロッテが絶好調で一瞬、優勝するかなと思った。

 だがロッテは肝心かなめの勝負所で一軍選手8人を含む13人の新型コロナ感染者が出てしまった。よりによって首位のソフトバンクを僅差で追いかけている最中だった。

 最後、ソフトバンクの優勝は結局のところ総合力となったが、ロッテの勝負所でのコロナ禍を見るにつけ、「野球運」というか「勝負運」というものを考えてしまう。

 ちなみに私、巨人の日本シリーズの相手は昨年に続き、このソフトバンクであろうと睨んでいる。2位と4試合制のクライマックス・シリーズに臨むが、なにを言ってもアドバンテージの1勝は大きい。

 今季を振り返って、大きな1勝を挙げろと言われれば、6月19日・阪神との開幕戦だろう。阪神は西勇輝投手の好投もあって試合の主導権を握っていたが、その西勇を6回1失点で早々と降板させた。

 あとは記憶の通り、吉川尚輝が岩崎優から逆転の2ランを放ってそのまま逃げ切った。菅野に勝ちが転がり込み、これでチームも菅野も乗った。この開幕3連戦、終わってみれば開幕8度の阪神との開幕カード3連戦で史上初の3連勝となった。

 私の巨人Ⅴの予想は確信に近くなった。

 それにしても今季の巨人、3割打者が1人もいない中でのⅤだった。坂本は打率・289、丸佳浩・282、岡本和真・277である。これは2014年以来だという。

 しかし、得点圏打率は坂本がリーグトップの・373、岡本・361だ。チーム打率は・255でリーグ3位でも得点500はリーグトップだ。丸は・280だがたびたび勝負強い打撃で貢献した。

 この3人が3割を打てなくても序盤は吉川尚、増田大輝、北村拓己、亀井善行、中島宏之、ヘラルド・パーラ、さらに途中加入のゼラス・ウィーラーら脇役陣が機能した。終盤は1番・吉川尚・2番・松原聖弥が定着して得点に大きな役割を果たすようになった。選手の底上げが進んでいる。

 投手陣では1年間キッチリとローテ守ったのは菅野、戸郷翔征くらいだが、強力な中継ぎ陣が控えていた。優勝まで組んだ打順は88通りで選手たちの好不調を見極め、中継ぎ陣には過密日程を考慮して、無理をさせなかった。

 8月6日の阪神戦。0対11の展開で野手・増田大輝を登板させた。賛否両論が渦巻いたが、特殊なシーズン下、連戦が続く。中継ぎ陣を少しでも休ませたい。周囲の批判に動じることはなかった。コロナ禍のシーズンをどう過ごすかを優先したのだ。柔軟な采配とともに目配り・気配りがあった。

ベテランの頑張りと若手たちの成長が目についたシーズンだったが、一番大きかったのは大城卓三が正捕手の座をほぼ手中に収めたことだ。やはり打てる捕手がいるのは打線にとっては心強い。キャッチング技術とか肩の強さがどうこう言われるけど、打たないことには始まらない。

 小林誠司はケガの不運があったがもともと打撃面が弱かった。炭谷銀仁朗も悪くないのだがやはり打撃面では物足りない。大城も開幕前に新型コロナに感染し、出遅れたものの挽回し頑張った。打撃面はもちろん、リードの面でも勉強してほしい。

 さて、ソフトバンクの周東佑京が30日、13試合連続盗塁に成功した。自身が塗り替えたプロ野球記録を更新し、1969年のバート・キャンパネリス(アスレチックス)のメジャー記録を上回った。

 月間盗塁は「23」で、私が1967年8月に記録した「24」にあと「1」と迫った。この年、「70」を記録して2度目の盗塁王になっている。

 私、盗塁に関しては走るという「意欲」があってこそで、70パーセントを占めると考えている。技術的なことは二の次である。周東、それだけ意欲が旺盛なのだろう。

 ソフトバンクが日本シリーズに出てくると「周東対策」も話題の1つになる。31日の試合では盗塁を狙う機会がなく、連続盗塁試合の記録は「13」でストップした。

 だが、私の時代と今は違う。投手のクイックや捕手の二塁送球などの技術は格段に進歩している。それでも記録を更新した。大したものである。自身もどんどん進歩して次のステージに進んでほしい。

柴田勲(しばた・いさお)
1944年2月8日生まれ。神奈川県・横浜市出身。法政二高時代はエースで5番。60年夏、61年センバツで甲子園連覇を達成し、62年に巨人に投手で入団。外野手転向後は甘いマスクと赤い手袋をトレードマークに俊足堅守の日本人初スイッチヒッターとして巨人のV9を支えた。主に1番を任され、盗塁王6回、通算579盗塁はNPB歴代3位でセ・リーグ記録。80年の巨人在籍中に2000本安打を達成した。入団当初の背番号は「12」だったが、70年から「7」に変更、王貞治の「1」、長嶋茂雄の「3」とともに野球ファン憧れの番号となった。現在、日本プロ野球名球会副理事長を務める。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月1日掲載

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