文在寅排除を狙い、米国がお墨付き? 韓国軍はクーデターに動くか

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2020年10月27日掲載

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韓国の民主主義は壊れ始めた

――本当に不正があったのでしょうか。

鈴置:分かりません。韓国の保守の中でも意見が割れています。最大手紙で保守系の朝鮮日報の崔普植(チェ・ボシク)先任記者は疑惑を提議した統計学者にインタビューしました。

“期日前投票の結果は理解不能…選挙管理委員会は疑いを晴らす必要がある”」(5月4日、韓国語版)です。しかし、この記事では統計学者の主張を紹介すると同時に、それに対する反論も試み、結論は出していません。

 行動保守の指導的立場にある、趙甲済(チョ・カプチェ)氏は「不正はなかった」と考え、「負けた原因を直視しない保守」を批判しました。

――韓国では「不正選挙」が大問題にならなかったのですね。

鈴置:しかし、不正だったと主張する人もまだいます。それに焦点は「不正かどうか」を超え「米国から疑いの声が上がった」――つまり「米国がクーデターをそそのかしているかどうか」に移っています。

 不正であろうがなかろうが、文在寅政権の正統性に疑問符を付ける声が米国で出てきたことがポイントなのです。ニューシャム大佐は2本目の記事で「言論の自由が侵されている」とも訴えました。以下です。

・韓国メディアは文政権から名誉棄損法によって脅され、批判する者は沈黙を余儀なくされるか投獄される(韓国では語ったことが真実だからといって身を守れない)。

 米国では、韓国は民主化したことになっている。いくら「離米従中」するからといって、民主国家でクーデターを起こすなんてとんでもない、と普通の米国人は考えるでしょう。

 しかし、韓国の民主主義は壊れている、と米国のアジア専門家が言い出したのです。この見方が米国で広まれば、クーデターへの嫌悪感もぐんと弱まるだろう――と韓国人なら考えます。

1952年、米国がクーデターを指示

――民主主義が衰えたからといって、米国が韓国軍にクーデターをそそのかすとは考えにくい。

鈴置:米国にはその実績があります。朝鮮戦争のさなかの1952年のことです。先ほど言及した趙甲済氏は著名なジャーナリストでして、『朴正煕伝記 私の墓に唾を吐け』第1巻で、結局は実行されなかった「米国主導のクーデター計画」を記録しています。

 1985年から1990年まで毎日新聞ソウル特派員だった永守良孝氏が『朴正煕 韓国近代革命家の実像』というタイトルで日本語に翻訳しました。第IV章を参考にして説明します。

 李承晩(イ・スンマン)大統領は1952年7月の選挙で、再選される自信を失っていました。当時は国会議員による間接選挙制だったのですが、1950年5月の総選挙で大敗を喫していたからです。

 李承晩大統領は大衆からの人気に期待し、直接選挙制への改憲を図ったのですが、国会で否決されました。そこで一部地域に戒厳令を敷いたうえ、憲兵隊を動員して反対派の国会議員を連行しました。

 これを見た米国は韓国軍にクーデター計画を立案させました。当時は朝鮮戦争のまっさなか。韓国の政治が混乱すれば、戦争の帰趨を左右しかねなかったからです。

 結局、このクーデター計画は実行に移されませんでした。政権側が「政局の混乱が続くと米軍は大統領を監禁して軍政を実施する。それよりは改憲がましだろう」と国会議員を懐柔。反対派の顔も一応は立てる改憲案に仕立て直して通過することに成功したからです。

国益なら韓国の民主主義を犠牲に

――民主主義を破壊する政権を倒すためにクーデターを敢行する、というのも変な気がします。

鈴置:米国は民主主義よりも、円滑な戦争遂行を優先したのです。それにクーデターの成功後は軍ではなく、親米派の政治家に政権を握らせる方針だったようです。軍事独裁政権を作るつもりはなかった。

 クーデター計画の立案者の1人が朴正煕(パク・チョンヒ)大佐(当時)でした。9年後の1961年にクーデターを敢行、政権を握った朴正煕氏です。

 趙甲済氏は著書『朴正煕 韓国近代革命家の実像』(216頁)で、朴大佐が1952年の未完のクーデターから学んだことは大きかった、と書いています。学んだ内容が以下です。

・米国が自国の利益のためには民主主義の原則も犠牲にする、と言うこと、韓国に権力の実態が確立されている限り米国もこれを認めざるを得ず、武力で既存の体制をひっくり返す意思はない、と言う点…(後略)…。

――なにやら「今」に似ていますね。

鈴置:そうなのです。中国との戦争に全力をあげたい米国と、民主主義の衰微が目立つ韓国。その韓国が米国の戦争を邪魔する――という構図はそっくりです。だから、ニューシャム大佐の記事を読んだ人が――ことに、1952年の未完のクーデターを覚えている韓国人がぎょっとしたのです。

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