妻のオナラに二人で笑えるようになった日──在宅で妻を介護するということ(第9回)

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摘便するより「のの字マッサージ」

 お通じについてはこれといったトラブルがなく、非常に順調にここまできた。尿道に挿入したチューブ(バルーンカテーテル)を通して、毎日千cc前後の尿が測ったように排尿袋に溜まっていった。

 看護師さんが週に1度、チューブの交換と同時に生理食塩水などでカテーテルを洗い流してくれた(膀胱洗浄)ので、尿路感染や管のつまりを起こさず済んだ。夜の10時、目盛りを確かめてから中身をトイレに廃棄するのが日課だった。

 排便については女房の場合、「硬すぎず柔らかすぎず、ちょうどいい感じですね」と、来る看護師来る看護師(延べ10人くらい)にほめられたくらいだ。当時、1日3回おむつ交換していたが、まとまった量が出るのはたいてい朝の1回で、便秘をしても軽く下痢をすることはまずなかった。

 自分でいうのもなんだが、おむつ交換の技術は日々上達していった。1日3回もやっていれば誰でもうまくなる。以前も書いたように、私にとってはおむつ交換よりも、自炊回数が増えてたまる一方の食器洗いの方がよほどきつかった。

 明らかに便秘かなと思うこともあったが、3日~4日くらい便が出ないと、「摘便(てきべん)」といって、看護師さんが肛門に指を挿入して掻き出してくれた。先端でフタの役割をしている部分を取り除くと、後は面白いように便がとれて、それこそドンブリ一杯に近い量が出る日もあった。

 看護師さんの動きを逐一観察してまねていた私も、この摘便だけは勘弁させてもらった。その代わり、お腹をおへその下から右回りに「の」の字を描くように押すことで排便を促す方法を盗ませてもらった。これを「のの字マッサージ」という。

 大腸の形をイメージしつつ3本指でずらしながら押していくと、歯磨きチューブを押すように便が絞り出されていく。面白いというより気持ちいい。のの字マッサージを採り入れて以来、便秘症状はほとんど出なくなった。“無理な摘便よりやさしいのの字マッージ”……健康だが便秘がちの女性にも効果が期待できるそうなので、是非おすすめしたい。

 季節は春盛り、桜の開花シーズンを迎えていた。桜が満開になると、我々夫婦は必ず一度は連れ立って、近くの公園に花見に出かけた。今年は、ヘタをしたら独りで見ることになると思っていたが、この調子だと「来年あたりは車いすで花見」ができるかもしれない。

 運よく救えた命だ。医師・看護師、理学療法士、訪問入浴スタッフなど、地域の介護力を借りてみんなで守ってきた命である。この先、まだいろんな試練が待ち受けているだろうが、スタッフへの感謝の気持ちを忘れずに、粘り強く、3年、5年先を見据えて頑張れば必ず結果は出る……私の「在宅」への自信は日に日に深まっていった。

平尾俊郎:1952(昭和27)年横浜市生まれ。明治大学卒業。企業広報誌等の編集を経てフリーライターとして独立。著書に『二十年後 くらしの未来図』ほか。

2020年9月24日掲載

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