尖閣「中国漁船衝突」から10年 映像を投稿した元海保「一色正春氏」に訊く

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

弱腰の大手メディア

 2006年になって枠は消滅し、日中記者交換協定も存在しなくなったと報じたメディアもある。だが一色氏は日本における大手メディアの報道姿勢を疑問視する。

「当時も今も、日本の大手メディアが好んで報じるのは基本的に日中友好という文脈の提灯記事が大半で、その傾向は概ね変わっていないと感じています。しかし我々は今、インターネットというツールによって中国共産党が何をしているか把握できます」

「ウィグルで100万人以上の罪のない人々が収容所に入れられ、女性に対して強制的に不妊手術を行っていることも日本のメディアを通さず知ることができるようになりました」(同)

 同様にして、南モンゴルやチベットなどで、どれだけ中国共産党が人権を抑圧しているかも知ることが可能だ。

「その事実を知ってしまうと、大手メディアの欺瞞が良くわかります。彼らは日ごろ『国民の知る権利に応えなければいけない』と言いますが、それに相応しい報道を行っているかと言えば、はなはだ疑問に感じざるを得ません」(同)

中国は逆説の“法治国家”

 今も尖閣諸島の状況は大手メディアが報じているわけだが、様々な問題が指摘できるという。一色氏が言う。

「例えば共同通信やNHKという大手メディアは『111日連続で接続水域を航行した』という記事を配信するわけですが、イチローが連続ヒットの記録を更新したという報道とあまり変わらないように思えます」

「少なくとも私は『111日』という日数を報じるより、大手メディアは航空機や船を使って現場に行き、尖閣諸島でどんな船が航行しているか、映像や写真で見せることのほうがよほど報じる価値のあるニュースだと思います」(同)

 一色氏は「皮肉なことですが、尖閣を巡る政策に関しては、日本より中共のほうが“法治国家”の名にふさわしいと思います」と苦笑する。

「中国共産党は1992年、尖閣諸島は自国の領土だと明記した『中華人民共和国領海および接続水域法』を採択公布しました。それに対して日本政府は抗議しないどころか、同年10月に現在の上皇上皇后両陛下が初めて中共をご訪問されるという形で応えました」

グランドデザインなき日本

 一色氏の指摘を続けよう。

「更に2009年12月、中共は離島の管理強化などを定めた『海島保護法』を公布しました。無人島の所有権は国家にあると規定し、その管理は軍が行うことを明文化したのです。ちなみに、この時も日本政府は抗議を行わず、大手マスコミも大きく報じることはありませんでした」(同)

 中国共産党は尖閣諸島に中国人民解放軍が占領、駐留する法的根拠を整備したことになる。そして諸島付近の海域を航行する武装巡視船も、この法令に従って行動している。

「ひるがえって、わが国はどうでしょうか。尖閣諸島が日本国の領土であると定めた国内法はなく、維持管理を誰が行うのかも法令で明確に定めていません。まして、わが国の領海を脅かしている武装巡視船や海軍艦船に対し、明確に対応する法律は、最後の手段である『防衛出動』しか存在しないのが現実です」(同)

 接続水域に武装巡視船などが出現すれば、海上保安庁の巡視船が対応しているが、国内法には他国の公船に対応する規定はない。

次ページ:日本は対処療法

前へ 1 2 3 4 次へ

[2/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。